第155期 #3

ティータイムに望むのは平穏

郵便受けに何か落ちる音で目が覚めた。眠い目を擦りながら蓋を開けると、溜まった広告の中に黒々とした塊が鎮座していて、手に取るとそれが拳銃だとすぐに理解した。困ったが、誰が入れたのかも検討つかないのでとりあえず家に持って入ることにした。朝食を摂りながらこの拳銃をどうするか考えたが特に思いつかなかったのでなんとなくこれを持って街に行こうと思いバックに入れた。歩くたびに背中にあたるものが鬱陶しかったが、妙な安心感も同時に感じる。そんなことを考えながら公園の前を通ると新田が居た。中学の時の同級生だった彼はリュックを背負ったまま水を貪り飲んでいてとてつもない気迫を感じた。話しかけると彼も一瞬懐かしむような顔してすぐ久しぶりだなと言った。そうだ、新田を拳銃で脅してみよう。彼はバックに手を滑り込ませ一気に拳銃を新田に突きつけた。これ拾ったんだ、と言うと新田の顔が激変し彼の拳銃を払いのけ自らもリュックに手を伸ばし何やら黒い塊を取り出した。黒い塊から爆発音が響く。幸い肩を擦れただけの軽傷で済んだが、状況は飲み込めない。新田は目が充血し、息が切れている。そして彼は叫んだ。岡藤もやっぱ持ってたか、拳銃。新田の声はよく響いたが岡藤の耳には入らず、己の拳銃の引き金を引いた。新田の脚から鮮血が噴出し周囲を染める。新田の悲痛な声を無視し岡藤は自宅へ走っていった。
家に着き、郵便受けを確認すると、真新しい紙が入っていた。『全国民に告ぐ。近年の凶悪犯罪の増加に伴い武器を支給する。今日からは自分で自分の身を守るように。』赤いゴシック体で記された何とも無慈悲なその文を見つめながら呆然としていると、直近くで銃声が聞こえた。振り向くと、また聞こえる。また、また、また。近くで聞こえる冷徹な爆発音。立て続けに感じる生命の危険に群集はパニックになり誰かが防衛本能に逆らえず引き金を引けば。もう、止まらない。どうしようも無いので家に入り、お湯を沸かした。棚から親戚に貰ったクッキーを取り出し小さい皿に5,6枚盛り付け、テーブルに置く。沸騰したお湯をティーバックと共にカップに入れると紅茶の良い香りが匂ってきた。琥珀色の液体を一口飲み窓から外を見やると、家の前の道路で男女が揉めている。男が女を打ち殺すとこちらに気づき、近づいてくる。もう一口、紅茶を啜り、クッキーを齧る。最後のティータイムは、非常に騒がしいものになってしまった。



Copyright © 2015 桜 眞也 / 編集: 短編