第155期 #16

山の婚礼

 帰るというと男は黙っていたが扉は開かれた。馬は鞍つきでそこにいて馬上の男が離れて待っていた。主からですと大きな原石をおいて男は去った。帰った父はまた出かけていき翌日には男と私の婚礼がおこなわれた。男は夜中にだけ、窓のない寝室にだけ現れた。息子の私に似ていない目が男を思い出させた。従者は屋敷のどこにでも現れたが夜になると呼んでも現れなかった。女たちによれば妻を得て近くに住んでいるようだった。本人に案内させると確かに女の手が入っていたが女の姿はなかった。妻帯していないと男はいった。そして夜がふけて男が現れた。私に似ていない目が私の目を見た。やがて男は原石とともに山に埋もれたが夜ふけの寝室には姿を現した。屋敷から男の住まいに移っても夜になると男は姿を消した。私の目をもつ息子はあいつは山に入って獣を撃っているのだといった。男をつけた男たちは獣など見えなかったといった。長男は朝陽に白く血を輝かせてこれが獣だと男の首をほうった。胴は見つからなかった。次男もやがて夜になると姿を消すようになった。私は獣は死んだのではないかと長男にたずねた。確かに殺したが夜がふけるとここへやってくると長男はいった。まじわりもせずに生まれた三男は死んだ二人の男のどちらにも似て私のどこにも似なかった。そして夜も昼もそばにいた。獣が消えてしまったと長男はいった。男は目を失った。次男は昼にも姿を現さなくなり、私は長男をつれて山に入った。男が原石とともに埋まったそこを掘っていた男は宝石をさがしているのだといった。獣を知らないかと長男はいった。知っている。おまえのいう獣が私の知る獣のことならば。長男の帰りを待つあいだ男はトランプの札を並べていた。長男が宝石を抱えて戻ると男はそのひとつを呑み込んで先に立った。男の腹が光り山の闇を払った。男がゆびさした。なにもいないと長男はいった。獣を見ることはできないと男はいった。私には次男がそこにいるように見えた。帰ろうと長男はいった。男たちは次男の胴を見つけてきた。首は見つからなかった。山をおりた男が審判を待つ長男を殺した。そして宝石と首をもっていってしまった。夜になると山が光った。男たちは男が埋まった穴が深く穿たれているのを見た。原石が掘り出された。三男のことを誰も、私もおぼえていなかった。私と結婚してほしいと男はいった。はいと私は言葉にした。四番目の子は授からなかった。



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