第155期 #15

親父

どんな人間でもそれ相応のステージってもんがある。
お前にもきっとそれがあるだろう。どんなステージでもいい。
お前の持ってるもんを全力でぶつけられる何かがあればいいな

それが父の口癖だった。
普段から粗暴で酒飲みで適当でいい加減だったが
どこか芯の太い昔ながらの人だった。

俺が高校を卒業し田舎から都心に行くとき
父は何も言わず俺を抱きしめた。
ただそれだけで俺はこの人の子である事を感じた。

数ヶ月が過ぎなかなか定職につけず
ようやく就けた仕事は決して人様に言えるような立派な仕事ではなかった。

なんの為に生きているかわからなくなった。
生きる為に金を稼ぐ筈が金を稼ぐ為に生きていた。

親父は俺を見てただ笑った。
自分の農作業をしている手を見せお前の手は綺麗でよか と
仕事に貴賎などありはしないと

どんな仕事も世の為人の為にある と
生きてる意味なんて俺にもわからんのにお前みたいな若僧にわかるわけないと。
ただ豪快に笑った

少年よ大志を抱け
ぼーずあんびしゃす。

俺はそこで笑った。
それだけでこの人にはまだ勝てないとおもった。



Copyright © 2015 斎藤詩音 / 編集: 短編