第154期 #4

お気に入り

 あたしだけを見て欲しい。誰よりもあたしだけを。
 お気に入りになった小瓶を見つめながら、あたしはそう思った。

 光輝くんはいじわるだった。あたしの気も知らないで、クラスメートの悠ちゃんや学級委員長の高品さんからも声をかけられる。声をかけられるだけなら仕方ない。光輝くんは頭が良いから、男子からも頼りにされてるし、先生からの信頼も厚い。でもね、あたし以外の女子から声をかけられて、やさしい笑顔で瞳は返さないで。それは恥ずかしくて声をかけられないあたしへの、あてつけにしか見えないから。何度も何度も、何回も何回も。うん、そうだね。きっとそう。あてつけだったんだね。

 だけどあたし、許してあげた。だって知ってたもの。聞いたの。光輝くん、あたしに気があるって。いつも光輝くんを目で追ってた美子ちゃんが言ったの。髪の毛を数十本引き抜いたら、泣きながら震えて美子ちゃんは教えてくれたの。

 うふふ、そうか、あたしのこと好きだったんだ。あたしと一緒だね、光輝くん。
 そういえば女の子にいじわるをするのは、好きだからだって聞いたことあるかも。

 だけど光輝くん、いつになったらその瞳をあたしだけに向けてくれるんだろう。
 あたしに出来ることは、いつも光輝くんの近くにいることだけだったの。学校の日も、塾の日も。お休みの日も。ずっとずっと光輝くんの視界の片隅にいることだけだったの。
 そしたらある日、光輝くんはなにかから逃げるように走り出しちゃった。きょろきょろとよそ見なんかしながら。まるで怯えた子猫ちゃんみたいに。
 あ〜あ、だから車にはねられたんだよ。光輝くん。壊れた人形みたいに地面にぶつかって、格好よかった顔がぐずぐずに歪んで、眼球だけがころころとあたしに転がるはめになったんだよ。

 可愛そうだね、光輝くん。
 可哀想かも、光輝くん。

 でもね、良かったよ。これであたしだけを見れるもの。小瓶の中で浮かぶ光輝くんを、あたしだけが見ていられるもの。



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