第154期 #2

宇宙葬

2515年、世界の葬儀は全て「宇宙葬」になっていた。この数年で発達したクローン作製技術により人口が爆発的に激増。水の星には114億人の生命が活動していた。それに加え製作される生命よりも消滅する生命の数の方が圧倒的に多く、地球の面積の1割は墓に変わり果てた。このままでは人間の住処が無くなる。死より生だ。全人類が嘆き喚いた。そこで国際連合が立案したのは「宇宙葬」だった。案の内容は、死体をミサイルに収納し宇宙へ発射し爆破させる。それと安全の為死刑囚を操縦士にしたらどうかという案だった。これにほとんどの国は反対していたが、徐々に、それしか思いつかないと賛成の声が増え、3年後には全世界でこの計画が実行されていた。この頃の世界に「人権」という言葉は欠落していた。
そして今日も、1人の死刑囚が案内人になる。、名は伊藤。4年前に悪質な運転で4人の命を奪い、世界で死刑の中でも最も重い刑罰、「操縦死」に処された。伊藤がロケットに乗り込もうとすると、罵声と共に石ころが飛んできた。二の腕に中る。振り向くと、運よく生き残った家族の兄が充血した目で睨んできた。はよ逝け、と泣き喚いている。そんな声もお構いなしに伊藤はミサイルに乗り込んだ。業火が燃え滾る音が叫びとなり鼓膜に響いてくる。もう何分後には死ぬというのに、緊張の類は感じない。自分の冷静さを可笑しく思い、くす、とにやけた。
ミサイルが、発射された。
妙な感触に突如襲われた。股間がフワっとするような感触。その拍子に伊藤は失禁した。今頃になって恐怖がジワジワとやって来る。脚の震えが止まらない。そんな彼女を嘲笑うかのように、雲の向こう側で飛行機が楽しそうに飛んでいた。ああ、自分も真面目に結婚していたら、これじゃなく、あれに乗ってたのかもしれないな、と今更になって後悔する。そろそろ、爆発するかも。この異様な寒さを感じ、伊藤は気づく。お母さん、会いたいよ・・・・。悲痛な叫びが操縦席に響くが、誰も返事しない。彼女は孤独のまま1人死んでいく。それが人の命を奪った代償、責任。絶望を感じ震えながら外を見ると、伊藤は目を見開いた。
そこには居たのだ。母が、母なる地球が。青い海、白い雲。パステルカラーが目に広がり、彼女は見とれた。そして彼女は、草も、花も、鳥も、全ての生命を愛おしく感じた。お母さん、今からやっと帰れるよ。勝手だけど、待っててね。




「伊藤、死刑執行完了。」



Copyright © 2015 桜 眞也 / 編集: 短編