第154期 #15

灯台守

 この村は、道の変遷と共に生きて来た。
 稲作地帯と言えば聞こえは良いが、それだけでは食って行けんから、稗やら大根を作れるだけ作って飯の代わりにすすって、余りがあれば保存食に仕立てる。いつ訪れるか分からん飢饉に備えてな。菜飯も稗も美味いものではなかった。とは言え生きるため働くためには食わない訳にはゆかん。仕方がない。
 両隣の集落と、休まず歩けば一日かかるかどうか。おかげで行商に牛方と、人の行き来は絶えんかった。ちょっとした宿場町のような時代もあった。無論、宿などないから誰かしらの家に泊めてやる。貧しいもので大したもてなしはできなかったが、泊まる者も分かっておるから、粗末な食い物だろうと文句も言わずに食べては、お礼にと村じゃ手に入らない物を置いて行ってくれた。
 道がならされると、村には少し余裕ができた。
 行き交う馬は三倍を数え、売り買いの量も増えた。養蚕が始まったのもその辺りだったはずだ。最初こそよう死なせたが、職人を雇うとすぐ軌道に乗った。おかげで毎晩麦飯を食えるようになったものだ。
 山の上にお堂が見えるだろう。今では朽ちて見る影もないか。百年近くも経つものな。昔は常に堂守りがおって、まあ守りと言っても食い詰め者を置いておくだけなのだが、村一面を見渡せるし、人の往来も分かる。夜は付近で迷わんよう、火を灯し続けたよ。
 車が通るまでに十年もかからなかったのではないかな。
 バスやトラックが止まると排気や音で眠れんかったものよ。おかげで便利になった代わり、荷馬は減った。そうしたらこんな小さな集落に泊まる人間もおらん、やがて何もかんも頭の上を跳び越すように通り過ぎて行った。金や食い物に困る事もなくなったがね。
 限界集落と呼ばれたのは何時だったか。もう半世紀近く前か。金を稼げるとなれば若い者は街へ移って、出稼ぎの時代と違い一生戻らん。村おこしと言って残る者や他所から居着いてくれる者もあったが、最後は皆諦めたし、誰もそれを責めなんだ。
 栄えた土地が廃れるのは仕方のないことだ。いつかまた人が住み着くか。確かにそうかもしれん。百年前にここから人が消え去ると、誰が思い描けたものか。
 お堂に火が灯ったな。そう。人はもう住んでおらん。一里四方は猫の土地だ。ならば堂守りも猫に決まっておる。
 今宵は月が大きかろう。お堂の連中を見たまえ。
 奴等の両目が月明かりを捕えれば、灯火は村を照らすのよ。



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