第154期 #14

君の名は

 知らないというと男は右の指を浮かせたが立ちあがりはしなかった。次に島のものだという名があがった。私は名から島の全容をつくりあげそこで十分に暮らしてみると知らないと答えた。男は椅子にもたれて私から目を離した。グラス二つに酒をつくって戻ると男は右の指でつまんで水面に舌をはわせた。私は鳥の名をあげた。男は酒をなめたまま知っていると答えた。男が語る鳥は私の鳥とはちがっていた。答え合わせをしようと私はいった。男は酒をなめていた。しかし閲覧室が閉じていたのでそのままあがって屋上庭園に出た。男の姿が見えない。そういえば庭は一階にあるんだといっていた。一階に向かうなかで山のいただきに白い指でふれる月を遠くに見つけたが段を踏み外してすぐに見えなくなった。床で動けずにいるとひきずられていった。時間だといって男は脚を離さなかった。白い部屋は高い小窓のふちに指をかけた月の光に白く光っていた。指がすべっていき光る場所がうつっていった。私はそのあいだに三度眠った。三度目に目をさましたとき白い部屋は黒くしずんでいた。朝だと柵越しに男がいった。屋敷の外では赤い光があらゆるものにぶつかっていた。歩けと男のひとりがいった。男たちは私の知らない方角を指していた。あっちへは行ったことがないと隣の男がいうのをきいた。私たちは靴を脱ぐようにいわれた。平らにならされた道から肌をとおしてぬくもりがあがっていく。ひとやすみしようと男たちがいいだした。私たちはひとかたまりになった。しかし男たちは私たちにかまわずじっと太陽を見ていた。男が逃げだした。男たちは白くにごった目で見ていたが知らないふりをした。そして屋敷へひきかえすものたちに靴を剥ぎとられていった。おまえは行かないのかと男がいった。私は屋敷には戻らないつもりだと答えた。答え合わせができないな。男はあの男だった。落ちていた靴を試してみたがぬくもりが去るのでやめてしまった。屋敷から離れる道は続いていた。そちらへ進むと赤い光が青い光にうつりかわっていった。知らない光だ。空をさがしたが月らしいものはなかった。遠くに火が見える。男が火にあたっていた。ここにいてもいいかと私はいった。すると男は私の脚をもって遠くへひきずっていった。どうしてこんなことをするのかと私はたずねた。男の答えは長々と入り組んでいた。要するに私はここにいてはならないというのだ。私は河に投げ込まれた。



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