第154期 #16
それは涙だったのかもしれない。
娘が嫁いでしまうという喜びと悲しみとが入り混じったからだのそこからくる振動だった。マグロは人目をはばからずに目から液体を流した。涙というレベルの塩分ではなかった。潮水に限りなく近かった。それもマグロの体内で凝縮された死海よりも濃い潮水だったマグロは、ぬぐうこともせずにただ嗚咽をあげた。
静まり返っていた。マグロが号泣しているのである、誰が陽気にできようか。
ほんのつかの間であった。
さっきまでとは打って変わって式は厳粛に進んでいた。
お祭り騒ぎであった。歌いだし、泣き出し、笑い出し、本能のままに出席者は立ち振る舞っている人間をよそに、マグロはしくしくと酒をあおった。自分を痛めつけているようだった。女の子がマグロにつまみを差し出した。つまみはマグロの身を固めて乾燥させたものだったが、マグロはかまわずに会釈してそれを受け取った。
マグロは酒におぼれた。どうしようもなかった。ただ深く悲しかった。
そして、マグロが新郎もしくは新婦のどういった関係の親族もしくは友人であるのか、誰ひとり(新郎新婦でさえ)分からなかったがなんとなく言ってはいけないような気がして黙っていた。
マグロはようやく涙をハンケチで拭いて、フォアグラのソテーにフォークを入れた。
その様はナイトさながらに実に華麗であった。