第154期 #11
いっちゃんが入れてくれるコーヒーが好きだ。と言っても、インスタントなんだけど。
同じ粉なのに、自分が淹れるのといっちゃんが淹れるのとでは全然違うのはなぜだろうって思う。いっちゃんに聞いて分量を同じにしても、自分で淹れたコーヒーは薄かった。
キッチンでいっちゃんがコーヒーを淹れてくれている。
マグカップにインスタントコーヒーの粉を、スプーン3杯入れる。いっちゃんは甘党だから、そこにスプーン3杯のグラニュー糖を入れる。そんなに入れたら甘すぎるんじゃないかって思うけど、いっちゃんはそうでもないらしい。
そこに水道水を少し入れて、いっちゃんはマグカップをゆすったり回したりし始めた。
「何やってんの?」
ちょっと驚いて聞いてみた。
「ん? ここの水道水は、モンドセレクション……」
「いや、それは知ってる。そうじゃなくて、先に水入れるの?」
慌てるオレを見て、あぁ、といっちゃんが笑う。
「ポットのお湯だけだと熱くて飲めないから、先に水入れてみたりして」
テヘッっと笑って、いっちゃんはマグカップをグルグル回しながら、中の状態を見ていた。
「どうなってんの?」って覗きに行ったら、うまい具合にペースト状になっていた。
そこにポットからお湯を少し注いで、マグカップを回すという作業を2回繰り返して、見るからに濃いコーヒーを作る。エスプレッソを作るのに、わざわざ濃縮しなくてもいいんじゃないかって思ってしまう。
「これに、こうやってお湯を注ぐと……」といっちゃんは電気ポットから出てくるお湯を傾けたマグカップの内側にあてて注ぎ始めた。中のお湯の量に合わせてマグカップを真っ直ぐに戻していく。まるで、ビールサーバーでビールを注いでいるようだ。
「マドラー、いらないでしょ?」とニコッと笑って、いっちゃんはオレにマグカップを渡した。
確かに、マグカップの上のお湯もしっかりコーヒーの味がする。そして何より、ちゃんと濃いんだ。
「なんか納得いかないんだけど……」と言うオレに、「そう?」といっちゃんが自分のマグカップに口をつけた。
いっちゃんのいない時に、いっちゃんと同じ方法でコーヒーを淹れてみた。できたコーヒーは、ちゃんといっちゃんの味だった。
こういう時はネットに限ると思って、ネットで調べたら理由が書いてあった。水で粉を溶かすところがポイントのようだ。
いっちゃんはそんなこと知らずにやってんだろうなって思うと、その才能が羨ましかった