第153期 #2

このまま進むと……

「昨日、私の所に届いちゃった」
「え? まじで。いつ行くの?」
「明後日。だから、午後の講義は出ないつもり。休学の届け出したら、市役所とかに行かなきゃならないし」
「付き合うよ」
「ありがとう。そうだ、私の冷蔵庫に残ってる野菜とか、あと米とか持って行ってよ。捨てちゃうの勿体ないし」
「遠慮無く貰います」
「うん」
「なぁ、馬鹿な質問しちゃうけどさ、やっぱり赤い紙だった?」
「まさか。単なる茶色い封筒に入った白い紙だったわよ。書留だったけど」
「そっか。そうだよな。どれくらいの期間、行くの?」
「訓練半年、現地一年って書いてあった。期間延長有りらしいけど」
「じゃあ、最低でも二留しちゃうってことか」
「健二と一緒に卒業したかったな」
「う〜ん。でも、俺にもそのうち届くと思うよ。お互い無事に戻ってきて、一緒に卒業しようぜ」
「なんか楽天的ね。でも健二らしいかも。私達、遠距離恋愛になるんだよね?」
「そうなるな」
「浮気しないでよ」
「するか」
「本当に?」
「くどい」
「ごめん……」
「親には言った?」
「うん。さっき電話した」
「会いには行かなくていいの?」
「明日、お母さんがこっちが見送りに来てくれるって。お母さん、泣いてた……」
「それは、そうだよな……」
「私、髪、ショートにするね。美容室も付き合ってくれる?」
「髪、伸ばしてたんじゃないの? そんな規定があるとか?」
「いや、ないと思うけど。卒業式に袴着るために伸ばしてただけだしね」
「せっかく伸ばしたのに勿体ない」
「切った髪、健二にもあげようか?」
「そういうの、縁起悪い感じがするんだけど」
「そうだけど……。ごめん」
「ノート、取れる内は、ちゃんと取って置くからな」
「本当に? うれしい。だけど、健二がノートを取ってるところ、見たこと無いけど?」
「大丈夫だ。任せろ」
「黒板をスマホで撮影しただけとか、そんなのは嫌だよ? あと、読める字で書いてよね」
「う、まぁ、なんとかする」
「期待しておくね。健二、キスして?」
「うん」
「……」
「……」
「私、どうしても行かなきゃいけないのかな?」
「法律上は、としか俺は言えない」
「ねぇ、このまま2人で逃げちゃおっか?」
「まさかの愛の逃避行!」
「乗るなら最終の各駅停車ね。リニアだと風情がないわね。トラックの荷台に2人で隠れたり?」
「まぁ、直ぐ捕まるだろうけどな」
「夢がないわね。ちょっとは私の現実逃避に付き合ってくれてもいいじゃない」
「あ、ごめん」



Copyright © 2015 池田 瑛 / 編集: 短編