第153期 #1

亡骸

 意気消沈し何かの拍子に自殺しようとした。未遂に終わってしまい父に自殺がバレた。父は、間抜けな顔をしていた。
 ベルトをカーテンの棒に括りつけて死ねる気でいたが人間の体重を支えきれる程、丈夫じゃなかった。留め具が外れてしまった。
 死のうとした理由はわたしがこの世の中にいる事で迷惑をかけてしまうしどう足掻いたとしても散々な結果だからだ。
 諦めんなよ! と言ってくれる人がいるかもしれない。だが二次元のようなファンタジーならまだ希望はあるけれど三次元という現実は甘くない。
 確実に人生を詰んでいるわたしにどう足掻けば望みがあるのかご教授願いたい。
 頑張れ、負けるな、生きろでは何をどう頑張ればいいのか分からないのだ。
 自分で考えろ! と言われるかもしれないけど死ぬまでに至り、わたしなりに深く考えてきたつもりだ。
 自信が粉砕され大人の醜さに嫌気がさしてなぜこんな事になってしまったのかと遠い目で過去を見つめてきた。
 あの頃に戻りたいかと問われても絶対に戻ってもいいことがないから戻りたくはないけど未来に向かって生きる気力も湧かない。
 怒られるのはもう嫌だし愚痴や 悪口や暴言も聞きたくない。
 一人になりたい。
 人と関わりたくない。
 人を傷つけたくない。
 逃げてしまおう。
 わたしは母の人形じゃない。
 本当のわたしを受け入れてほしかった。
 わたしはわたしを受け入れられない。
 それでも生きなくてはならないのか。

 小さい頃にわたしはアパートで暮らしていた。蝉が桜の木にはりついている。わたしは蝉の亡骸を拾い山にすると靴で踏み潰した。バラバラに砕ける蝉は一つになったみたいだ。
 わたしはこの遊びが大好きだった。
 バッタを掴んで足を一本ずつブスリと引き抜くと変な体液がでた。ビクビクと痙攣する触角も引き抜いてしまうと放り投げる。
 今度はミミズを捕まえて切断すると這いずり回る体は次第に動かなくなる。

 首を縄に引っ掛けて少しずつ締まっていくのを感じた。まだ呼吸をしている。
 全身の血液が脳へ集中し膨張していくのが分かる。苦しくはなかった。
 瞼はすぐに降りて安堵と否定が交じり震えがわたしを襲う。
 あの時に引き抜いた虫達のようにわたしは残骸の一つとなっていく。



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