第152期 #2

雑多な白黒

名前も知らない小さな花、意味の分からない落書きがされている自動販売機、たくさんの車の排気ガスで体に悪い気がする生ぬるい空気、何かに焦燥したり誰かとおしゃべりしたりして過ぎ去ってく何人のも人、雨が降りそうで降らない微妙な曇り空。
ひとり、時間が止まっている、わたし。
わたしはついさっき振られたの、三年間付き合ってた彼氏に。そこそこに格好が良くて素直な彼。そこそこに可愛くて面倒見の良いわたしとお似合いのはずだったし気が合ってたはずなの。
彼は、二ヶ月前くらいから「忙しくて……」と何度も会うのを断って。今日久しぶりに会ったら携帯ばかり気にして。わたしはピンときた。女の勘ってやつ。二人で入った喫茶店で「浮気してる?」って聞けば明らかに動揺してまだ熱すぎるコーヒーに砂糖もミルクも入れず飲む彼。ブラックコーヒーは飲めないって言ってたのに。そういえばそれを聞いたのは初めてのデートでこの喫茶店だったな、なんて今は関係のないことを考える。彼は何を言うか色々思考を巡らせているようで、ちらっと私のことを盗み見る。わたしは余裕そうに少し微笑んでコーヒーを一口飲んでみせた。少しの沈黙のあとに聞こえてきた「……別れて」という声。その声はわたしが大好きな彼の声ではない気がして。「そうしようか」とわたしの声が言った。カップを見れば半分以上なくなっているコーヒー、口の中に残るざらっとした感触と苦味。会話が続かなくて「どんな女の子なの?」と聞いたわたし、言ったことを後悔するわたし。「うーん、どこか危うくて守ってあげたくなるような」いつもの彼の口調で出てきたわたしと正反対な女の子。その後はそれと言った会話もなく喫茶店をでて別れたわたしたち。いつも通り彼がわたしの分のお金も払う、最後の別れはいつもと変わらず呆気なく。



Copyright © 2015 あめようかん / 編集: 短編