第152期 #11
建前で話せばうさんくさいと嫌われる。
本音で話せば、よくそんなひどいこと言えるなと詰られる。
「でも私はそんなあなたが結構好きよ」
と彼女は笑ってそう言う。切り揃えられた短めの黒髪が彼女の微笑に揺れてさらさらと光る。ため息しかでない。
うさんくさくて嫌われものの僕の悩みはただひとつ、彼女の台詞が本心なのか、それともこれから僕に高額な絵や壺を売るための準備運動なのかが分からないということだ。
「当然後者」
数少ない友人は言う。
「で、あってほしいよね」
面白そうにそうつけ加える。
いい気なもんだ、僕は案外純粋に悩んでいると言うのに。
「というか、聞けばいいじゃないか。俺の前でうじうじするより、本人に聞くのが一番早い」
ばかやろう。
おおばかやろう。
お―おばーかやろう。
聞けるもんなら最初から、お前の前でうじうじするか。
いかんせん、僕は彼女のことがだいぶ好きなのだ。どう転んでも傷つけるような言い方スキルしかない俺が、彼女の本心なんて聞けるものか!
「おまえその辺案外めんどくさいよなぁ」
友人はそういうと、それ以上僕の悩みには付き合ってくれなかった。
考えに考えて、結局のところ本気ならOKもらえるだろうし、壺を買わせる気でもむしろOKもらえるだろとわけのわからない思考迷走の果て、彼女に告白したのは三日前。彼女は驚き、微笑んで、わっと泣き出した。
「私、だめよ、だって」
泣き疲れた彼女の告白。彼女は彼女ではなく彼だった。心は女性、体は男。名探偵でも見抜けないほど華奢なのに!
「じゃあ僕たち渋谷区に住もう。将来はオランダに住もう!」
思わずそう叫んだら、殴られて振られた。