第151期 #6

寿命

野菜の寿命は二、三日。
野菜を扱うのは大変だ。
早すぎても、遅すぎてもだめ。
人間みたいな生物はそこを見誤って野菜を簡単に殺す。野菜殺しは何の罪にもならないから。ちなみに人間以外の動物だと器物損壊罪。所詮、利益不利益賠償金。笑っちゃう人間様ルール。
雪に埋もれるとかそういうストレスに耐え抜いて、農家のおじさんのチェックをクリアして漸く出荷されたエリートの彼らは、間抜けな人間にもうだめね、と生ごみとして捨てられる。その無念は悔しさ怒りはどれほどのものだろう。
人間も一緒、様々な関門を突破してももうだめね、と思われたらあっという間に捨て置かれる。
嗚咽は喉につっかかって下ってこない。
私は一種類ずつ野菜を刻む。
疲れきって帰省して、陰鬱な顔で部屋に閉じこもる娘の昼食をつくるために。さくさくとんとん、まとめて器にいれて次の野菜に手を伸ばす。またさくさくとんとん。
彼女が何をしたというのだろう。逆に何を成したわけでもないからだろうか。
ある野菜は茹で、ある野菜は肉と共に煮込み、私たちは生きる糧をつくる。そうしなければ死が待つのみだから。
私は娘に掛ける言葉を持たない。でも私は彼女に生きて欲しいから。終わりなんてあと六十年は来ないわよ、そういう気持ちを込めて。
私は出来上がった料理をお皿に盛り付け、それをお盆にのせて娘の部屋へと運ぶ。



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