第151期 #19

ワーカーホリック

「佐藤くんはさ」
「はい?」
「佐藤くんは、なんでこの仕事、始めようと思ったの?」
「んー、お金ですかね。やっぱ」
「ウソだね」
「嘘じゃないですよ。これ、儲かるし」
「ウソだよ。君みたいな若い子なら、もっと楽して稼げる仕事、いくらでもあるでしょ?」
「それは、」
「なんでこんな誰もやらないような仕事、やってるの?」
「……こいつらを」
「うん」
「死体を相手にしてると、生きてるって感じがするから……」
「ふーん。変わってるね。あ、そっちの足、持ってくれる?」
「……先輩は、なんで始めようと思ったんですか、この仕事」
「え、俺? 俺は、まぁ、刺激を求めて、かな」
「……なんか、先輩、よくわかんないです。掴み所がないって言うか」
「はは、カミさんにも言われるよ。『あなた、友達いないでしょ』って」
「え⁉︎ 先輩、奥さんいたんですか⁉︎」
「ん、なんだよその驚きよう。娘もいるぞ。十歳と八歳。写メ見る?」
「あ、いや……てか、こいつの頭そっち回しますね」
「はいよ、っと」
「でも、家庭持ちでこんな仕事、大変じゃないですか? 、色々……」
「んーまぁ、親戚連中から鼻つままれてんのは確かだけどさ。この仕事好きなんだよ、わりと。スーツ着なくていいし、気ぃ遣わなくていいし。なんせ相手が死んでるから」
「確かに」
「それに、みんな死んだらこんなもんかって思うと、さ。未だに俺とろくに口きいてくれないお義父さんとか、俺のこと密かに見下してるエリートな幼なじみとか、元カノとか、上司とか、家族とか俺自身とか、さ。諦めがつくじゃん」
「なるほど。僕とは逆ですね」
「そう? 同じじゃない?」
「逆ですよ」
「いや、似た者同士だよ、俺たち。それより、どう。今夜終わったら付き合ってよ、飲みに。奢るからさ」
「わ、ちょっと、くっつかないでくださいよ」
「ははは、そう言うなよ。まだ当分はこの仕事、続けるつもりなんだろ?」



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