第151期 #11

昆布締め

何でも昆布に挟みたがるのは、ただそういう食文化があるだけで、特別おかしなことではない。
正月用の一品として、煤竹やワラビなどの山菜の昆布締めを作った。
昆布締め用の昆布が残ったので、冷蔵庫にあったサーモンの刺身も挟んでみた。昆布味のサーモン、おいしそうではないか。
昆布に挟んで冷蔵庫に入れ、待つこと3日。サーモンを挟んだ昆布を冷蔵庫から取り出す。口の中で勝手に味を想像する。絶対においしいはず。昆布からサーモンを取り出し、小皿に入れる。昆布の粘りも出ていて、これは期待が膨らむ。
ちょっと醤油を垂らして、いざ食さん!!
口の中に入れて、一口噛んだ瞬間だった。は? 全然違う味ですけど……? ってか、むしろこれは鱒寿司の鱒ですか……? あれ? サーモンだと思ったけど、実は鱒を昆布に挟んだ?
いやいや、いくら鱒寿司が有名だからといっても、スーパーで未だかつて鱒の刺身は見たことがない。間違って鱒を挟んだなんてことはありえない。

それからは、サーモンの昆布締め作りに奮闘だった。
とりあえず、食文化的に同じことをしている人がいるのではないかと思って、知り合いにも聞いてみた。とはいえ、そもそもサーモンの昆布締めなんて聞かないので、知り合いに聞いても「そうなの?」っていう回答しか出てこなかった。
仕方ないので、そんな食文化なんてそうそう持ち合わせないであろう人達が集うネットで調べた。意外とやっている人がいることに驚いた。昆布締めを初めて食べた外の若者が「これ、腐ってる〜ぅ」というのしか、見たことがないので当然の反応だろう。
使う昆布に酒を塗らない方がいいのではないか、とか、サーモンを一度酢で拭いたらいい、とか、締める時間が長すぎるのではないか、とか片端から試した。
しかし、どれを試しても鱒寿司の鱒にしかならない。

ある日、「やっぱり、鱒にしかならん」と、釣り好きのオッサンの前で話すと、オッサン曰く、「締めたらそら鱒寿司の鱒になるわ」と言って笑った。理由も教えてくれた。
鮭と鱒は同じものなのだそうだ。鮭も鱒も同じ「サケ目サケ科」。更にネットで調べたら、その境界は曖昧であるということまで書いてある始末。

かくして、年をまたいで奮闘した私のサーモンの昆布締め作りは幕を閉じた。



Copyright © 2015 わがまま娘 / 編集: 短編