# | 題名 | 作者 | 文字数 |
---|---|---|---|
1 | 愛しいものほど | けんぬ | 550 |
2 | 夜は明ける | あお | 814 |
3 | 男の嫉妬 | 杏哉 | 486 |
4 | 刹那 | 星砂スバル | 812 |
5 | What a wonder world where I live | 池田 瑛 | 996 |
6 | 真夜中おやつ | pipipi | 995 |
7 | 初恋の味 | わがまま娘 | 996 |
8 | お別れのサッカーボール | ユリイカ | 900 |
9 | 銀行で順番待ちするアリクイについて | なゆら | 426 |
10 | 夢か | 桜 眞也 | 426 |
11 | 祖母の写真 | サクラ | 715 |
12 | 言ってはいけない言葉 | 岩西 健治 | 958 |
13 | 金魚ミキサー | 白熊 | 1000 |
14 | 赤銅色の正義 | 五十音 順 | 777 |
15 | 銀座、仁坐、魂坐 | Gene Yosh (吉田 仁) | 999 |
16 | 布団 | 春川寧子 | 608 |
17 | 盗人の庭 | qbc | 1000 |
18 | 古典 | euReka | 1000 |
19 | くさり | 吉川楡井 | 1000 |
愛しいものほど手放してしまう。大切なもののはずなのに、あと一歩、相手に譲れないと伝えられない。その度にいろんなものを失ってきた。
子供の頃大好きだったキラキラ光るオモチャの宝石は、近所のななちゃんに取られた。私は何も言えなかった。
友達が私の誕生日にくれた小さなうさぎのストラップ、妹に取られた。私は何も言えなかった。
初恋の彼、友達に取られた。私は何も言えなかった。
他にもあった気がするけど思い出せない。思い出せないってことは、大して大切じゃなかったのかもしれない。
そんな私も高校生になり、2人目の彼氏が出来た。優しい人だから誰かに取られるのも時間の問題かな? とか思った。
ある日、彼が言ったんだ。
「嫌なら嫌って言ってもいいんだよ」
私は首をかしげる。何のことか分からない。
「要らないものは要らないでいい、けど、大切なものは大切でいいんだよ」
「でも──」
──怖いんだ。愛しいものを無くしたときのことを考えると……。だったら最初から手放した方が良いんじゃないかって。その方が悲しまなくて済むんじゃないかって、──思ってしまう。
私がそう言うと彼は微笑みながら、
「大丈夫。本当に大切なものなら、絶対に守れるんだよ」
と言ってくれた。
私は愛しい人の前で子供のように泣いた。
そして決めたんだ──。
夜中から夜明けに変わりつつある頃、外気と変わらないくらいの心の冷えを感じる。
「眠れないな。まったく眠たくないんだ」
「ココアを入れて飲んでみたり、体操をしたりしてみたけどかえって脳が活性化してしまった」
友達だってそれなりにいるし、このご時世では充分すぎるくらいのホワイトな企業に就職出来たし不満なんて何一つない。
でも、たまにこうなるんだ。
インターネットを立ち上げてみれば、色々な人が色々な意見をリアルタイムで発信している。
「人生がつまらない、やりたいことがない、自分が何者かわからない。そうだよな、自分がなぜ眠れないのかすらわからないんだ。俺はこんなに弱い人間だったか」
日本は、世界は悩んでいる。
人に生まれついたことを。
人は感情を持っている。人だけじゃないかもしれないけれど。
だから他人に共感出来る。してるフリの奴もたくさんいるけど。
欺瞞と矛盾だらけのこの世を生きて行くのは難しい。
「ああもうやめたやめた」
文庫本を開いて何度目かの読み返しをする。昔の人も悩んでいた。悩んだ果てに自ら命を立ってしまったりした。
悲しいけれどそれくらい短い人生でその文豪が辿り着いた境地は、とても神々しい気がして、人生を無我夢中で一生懸命生きたんだろうって頭が下がるよ本当に。
鳥が一声ぴいと鳴いた。何という鳥かはわからない。鳥の区別のスキルを身につける暇があったら俺はきっと仕事をしたり彼女とデートをしたりするので、きっと一生わからないままだ。
夜が明ける。スマートフォンが振動して、彼女の名前が浮かび上がる。
「もしもし。うん今起きたところだよ。そうだねいい天気だし、この前君が行きたいって言ってた場所に出かけようか」
人生は短いけど長くて大変なこともたくさんある。時々夜眠れなくなることもあるだろう。でも俺たちは死ぬまで生きなければならない。
「まずは顔を洗って髪型を整えよう。彼女との幸せなデートのために」
僕は精一杯生きる死ぬまで生きる。生きていくんだ。
まぁ、いいんじゃない。
確かに彼は巧いと思うよ。
歳も若いじゃない?俺が彼ぐらいの時に同じことが出来たかっていうと、んー、胸を張って「出来た」とは言えないかな。
恥ずかしながら。
いやでもまぁ、ジャンルが違うとこあるしね、一概に彼が抜きん出てるとも言えないかな。決して卑下するわけじゃなくてね。
色んな土俵があるからさ、俺の土俵も彼とはちょっと違うわけだし。
まぁでも彼は本当に巧いと思うよ。
あ、ちなみにさっきから言ってる「巧い」ってのはテクニックという意味の巧いね。技巧のギ。
感性というか、天才肌というか、そういった感じとは違うところ。
しかしあの巧さは否定出来ないね。
本人には何のことないのかもしれないけれど、同じことが誰にでも出来るわけじゃないし。いやでもまぁなんていうか、決して低く見てるわけじゃないんだけど、やっていれば到達出来そうなレヴェルっていうか、いや今の俺には出来てないけどね、そう、んー、化け物じみてはない、って感じかな。いや、言葉に困るけど。
それでもやっぱり巧いことには変わりないけどね。ホント巧いと思うよ、彼。
あ、ゴメン、ちょっとお手洗いに。
(しゃべり過ぎたか)
ここは戦場。毎日が地獄だ…
気を許したら、やられる。
俺はこの疵が疼く度に、魘(うな)される自分を呪った。
「あと、もう少し早ければ…」
悔いを残す日々は積み重なり、
どうにかなってしまいそうな気持ちと向かい合いながら、
今日という日を迎えた。
常に実行する事を想定してから行動する癖が付くようになるまでに、
そう時間はかからなかった。
相手がこう動けば、こちらが一手先を読む。
相手はさらに動けば、こちらはニ手先を…というように。
そんな日々を繰り返してきた事で、
今の自分は支えられているのだと戒めてきた。
「勝負は一瞬で決まる。」
「言い訳に費やす時間は気休めにもならない。」
「勝利を掴んだ者のみが、勝者の弁を語ることが出来るのだ。」
過去に読んだ小説の、心に留め置かれていた一節一節が、
立て続けに溢れてきた。
「…!!!」
遠くからヒタヒタと近づく足音が聞こえる。
耳を研ぎ澄まし、息を殺しつつも、この地に立つ俺がいた。
「(今日こそは…)」
心臓の鼓動が時を刻む。
鼓動は近づく足音とシンクロし、そのボリュームを上げる。
生きている実感が身体の隅々へと伝わって行く。
腰を低く落とし、身を構える。
目線を下げつつも、周囲への警戒は怠らない。
脳裏には無機質なセグメント表示のデジタル数字が、
時限爆弾のタイマーのように、静かなカウントダウンを始めていた。
「5…4…3…2…1…」
タイマーが「0」を刻むが早いかどうかのタイミングで、
俺は起死回生の一撃を放っていた!
『ぼっ、僕と…つ、付き合ってください!』
一瞬、驚いた表情を見せ、その後すぐに泣きながら走り去る、
赤いランドセルを背負った小学生の姿を呆然と見送った後、
その光景を遠巻きにして、通り過ぎていく彼女(ターゲット)。
「…は、早すぎたんだ…」
高鳴り続ける鼓動音。
指先から伝わるピリピリとした震え。
それらの刺激に耐えながら、
言わずにはいられなかった俺がいた。
ふと、空を見上げ、呟いた。
「明日から、通学路、変えよう…」
昼休憩の時間。弁当を作ってこなかったので、外で済まそうと思った。
「あ。外?」と課長に聞かれた。「え、はい。そうですが」。
「今から、テレビ会議に入るんだよね。これ、出してくれない」と2枚の葉書を渡された。
郵便ポストは双子だった。ポストが2基、仲良く並んでいる。なんで2基あるのだろうか。意味がないじじゃん。そうか。私が知らない間に、郵便の種類が細かくなったのかも知れない。ゴミの分別も細かくなる一方だし。しかし、両方のポストの投函口は両方とも、左の口に手紙を入れ、右の口に速達や国際郵便を入れるという、私の知っているものであった。同じポストが並んでいた。
左右のポストで郵便局の管轄が違うのかと思ったが、どちらも同じだった。取集時間が違うのかと思ったが、どちらも同じだった。
どうして2つもポストがあるのか分からないけれど、どちらに入れても結果は同じだろうと私は思った。そして、左のポストに課長から預かった葉書を入れようとしたとき、葉書の表面が寂しいことに気がついた。
郵便番号は、100-1701と書かれていたが、住所は何も書かれていなかった。葉書の真ん中には何某様宛と宛名はしっかりと書かれている。これでちゃんと届くのだろうか。筆跡を見るに、いつもの汚い課長の字だが、いつもより読みにくい気がした。会議に入る前のドタバタで住所を書き忘れたのではないだろうか。
もう一枚の葉書も同じようなものだった。郵便番号が220-8170と書かれ、住所は何も書かれていない。しかも宛名が、シリウス御中と書かれている。シリウスさん宛てなら、シリウス様、と書くべきではないのだろうか。いや、でも、そんな基本的なことを課長が間違えるはずがないし。そもそも、シリウスって、星の名前ではなかっただろうか。
一度会社に戻り、課長に確認を促すべきだろうか。でも、会議だって言っていたし。結局、「えい」という掛け声で、私は2枚の葉書をポストに飲み込ませた。
食事を済ませ、私は会社に戻った。机に戻っていた課長に「投函しておきましたけど……」と私は言った。歯切れが悪い、私の心中を察したのか、課長はニヤリとした。そして、机に置いていたタバコとライターを取り、オフィスから出て行った。
その日、私は定時きっかりに退社をした。そして空を見上げた。月が2つないかを私は確認してみたくなったのだ。しかし、月は見えなかった。
何故こんな状況になってしまったのだろう。自分の部屋で頭を抱える午前三時。いっそ建物ごと燃やしてしまえばいいのか。そうして、マッチを探しているところで気づくのだ。
「なにしてるんだろう」
元から答えなど求めてないのだが、それでも何か返事が欲しかった。気分転換にコンビニでも行ってこよう。
周りが暗い中で明るい場所を見つけると安心する。人はそんなものだ。
中へ入れば知っている顔がいた。
「里中君」
「あ、川瀬だ。奇遇だな」
「奇遇というか、あれでしょ」
「そういうお前こそ」
苦笑いっぽく笑う彼につられて、こちらも苦笑気味に肯定の返事をする。
「こればっかりは仕方ないよな」
「私は放火しようかと思ってた」
「お前過激だな」
「それでマッチ探しててなにしてるんだろうってなった」
「それは冗談じゃすまない」
里中君に肩を掴まれ諭される。
「川瀬、きっと疲れてるんだよお前」
勝手に籠を持たされ、どっさり甘いものを入れられる。
「疲れた時には甘いものが一番だからな」
「奢ってくれないの?」
「甘いな。俺は今金欠だ」
「…………これ、買ってくるね」
レジへ行きお会計するとそれなりの値段にはなっていた。今更だけどこれ食べたら絶対太るよな、なんて考えつつも、もう店員さんが全て袋に入れ終わって私に向かって差し出していたので受け取って出口に向うと、里中君が待っていた。
「送ってやる」
「え、いいよ。そっちも大変なんでしょ。悪いよ」
「遠慮するな!」
悪いことしたな。先に帰っててくれて構わなかったのに。
「里中君、私の家ここだから」
「えっ、近すぎないか!?」
家とコンビニの間は徒歩三分。近すぎる。
「ありがとう。お互い頑張ろうね」
お礼を言って彼を見送る。
「あ、そうだこれやるラスト一つだったんだ。お前好きだろ」
渡されたのはプリン。密かに好きなのを気づいてたらしい。
「好きなものあると頑張れるだろ。だから頑張れよ」
私の頭に手を乗せながらそれだけ言うと、彼は寒空の下帰っていった。私と言えば、部屋に入るやいなや貰ったプリンを口へ運ぶ。滑らかな舌触りが堪らない。甘いものは偉大だ。あっという間に容器は空っぽになってしまう。
「美味しかった……」
とろけるような心地は目の前にあるパソコンで破壊された。画面には「近代文学レポート」とだけ書かれているだけ。
「さて、やりますか」
レポート、それが今夜中に私が倒さなければいけない敵の名前だ。
「ただいま」ってリビングダイニングのドアを開けて、真っ先に目に飛び込んできたのは、テーブルの上のガラスボールに山盛りになった白いちごだった。あまりの数に、ボクはめまいがした。
「お帰り」って言いながら、キミはソレを口にして幸せそうに頬を緩める。
最近見たテレビでは、ソレが一粒600円って言っていたような気がする。こんな田舎の百貨店なら、もっと高いのではないか。スーパーのおつとめ品なんかではないだろうことは、夕飯の買い出しをしているボクが一番わかっている。
そう考えると、このガラスボールいっぱいのソレの総額は、かるく1万円は超えるんじゃないかって不安になった。
金額なんてお構いなしに白いちごを口に運んで、「美味しい」って笑うキミの隣に座ったら、「どうぞ」ってキミがボクに一粒差出てきた。
「ありがとう」って半分呆れてボクはソレを受け取った。キミが楽しいならそれでいいかって、思ってしまったボク自身に呆れてしまった。
キミから受け取った一粒を食べた。なんだか柔らかくて苺じゃないみたいな食感。そして、かなり甘い。見た目が酸っぱそうに見えたから、そのギャップのせいかもしれない。
「甘くておいしいね」ってボクが言ったら、「そうでしょ」ってキミが嬉しそうに笑った。
夕飯を食べて、再びキミと白いちごを食べはじめる。
「ねぇ、これって初恋の味だと思う?」とキミが納得いかない顔でボクに聞いてきた。
あぁ、この白いちごはその確認のために買ってきたのか、とボクは心の中で苦笑いだ。キミの好奇心には、頭が下がる。
「どうだろう? 昔聞いたのはレモンだったけど」ってボクが言うと、「レモンって酸っぱいだけじゃない」ってキミがやっぱり納得いかないって顔をして、最後の一粒を手に取ってマジマジと眺める。
「こいのかが甘酸っぱくて、初恋の味っぽいけど……」と呟きながら、キミは最後の白いちごを頬張った。
「ま〜でも、初恋の味なんて人それぞれだよね」とキミはニコッと笑って立ち上がり、空になったガラスボールを洗いに行く。
キミの初恋の相手がボクじゃないってことは十分わかっているけど、なんだかそれが寂しいし悔しい。だから、ちょっとイジワルしたいって思ったんだ。
「じゃあさ。キミの初恋の味って、どんなんだった?」
キミは洗い物の手を止めて、天井を見上げてなにかを考える。そして、「初恋は食べたことないかも」って呟いた。
次は、初恋を食べる気か?
僕はただのしがない高校三年生。
……だったはずなのだが、高校生活をかけて書いた小説がライトノベルの大賞に選ばれてしまって、高校卒業をまたずに作家デビューの為、東京に行く事になった。
学校でも有名人になって鼻高々だったのだが、同じサッカー部の仲間には少し気まずい思いを抱いていた。
全国大会の予選がすでに始まっていたからだ。サッカー部の部員達がこの日の為に頑張ってきた試合、僕はそれを捨てて東京に行くのだ。
サッカー部で行われた僕の送別会も、試合前なのでそれほど人は集まらなかった。
こんなに惨めな思いをするなら送別会なんて無い方が良かった……とさえ思ったが、集まった部員は皆優しかった。
「みんな練習で忙しいんだ。本当だぜ。全力で試合に賭けたいから来られないだけだからな」
「ありがとう」
一生懸命慰めてくれるのは嬉しい。
でも分かっているんだ。皆、サッカーを捨てた僕が嫌いで来たくなかったんだって。
送別会は楽しかったけど、僕のテンションが低かったせいか、それほど盛り上がったわけじゃなかった。
「じゃあこれ、みんなからのプレゼント」
仲間が出したのはサッカーボールだった。
「サッカーボールか。サッカーやる時間あるか分からないけど、ありが……」
「よく見ろよ」
「え?」
そのサッカーボールの白い六角形の部分に何かが書かれていた。
それは魔王だとかハーレムだとか様々な言葉が様々な字体で小さくビッシリと並べられ、全部読むのに半日はかかりそうだった。
「みんなで考えたんだ。お前が作家になってネタに困らないように、一人ずつこんな小説やラノベがあったら面白いだろうなっていうアイデアを書いてあるんだ」
「ホ、ホントだ……」
「白い六角形の一つが一人のアイデアだ。全部で三年生の部員の数とちょうど同じだったんだ。スゴイだろ」
「う、うう……」
僕は嬉しくて涙がボロボロ零れた。
「このサッカーボール、いや作家ボールを大切にするよ!」
「絶対ビッグになれよ!」
「うん!」
今までの僕の不信感や憂鬱全てが吹き飛んだ。
照れ臭くて言えなかった分のお礼は、サッカーの練習に励む部員を見ながらそっと呟いた。
「みんなありがとう」
僕がソファに座っていると、
ネクタイを締めたアリクイが入ってきて、
手馴れたしぐさで番号票をとり、
僕の右斜め前のソファに座った。
僕はそこそこ驚いていたけど、
僕以外の人間は何も変わらず、
窓口の女の子も、
僕の隣に座っている男も、
平然と事務をこなしたり、
ケータイをいじったりしている。
僕は、
僕が知らない間にアリクイの権利を認める最高裁判決がでて、
それを期にアリクイ達が街に出てきたのだろうかなどと本気で考えた。
少しして、
僕の番号が呼ばれ、
僕はアリクイから遠い方の通路を通って窓口に向かった。
窓口の女の子はお待たせしましたと事務的に言い、
どういった御用でしょうとこれまた事務的に言った。
僕はつかぬ事を伺いますがこの銀行にアリクイはよく来るのですか、
と聞いてみた。
斎藤様ならよくこられますよ、
と女の子がなぜそんなことを聞くのだろうというかのような顔で答えた。
いや僕はあのアリクイの名前が斎藤さんかどうかわからないんだけど。
そうですか、
と言って鞄から書類を取り出した。
家に帰ると玄関にコアラがいた。
オーストラリア国旗のスカーフを首に巻いている。
「おかえり!のぶくん!」
コアラが喋った。
「ごはんできてるよ!」
コアラが歩きながら言う。二足歩行で。
狭い1LDKのリビングの扉を開けると、うまそうなサラダの匂いが
漂ってきた。
俺は即座にサラダにパクついた。うまい。
「おいしいでしょ!」
コアラは俺の鞄を持ちながら言う。
「きょうはおやさいがやすかったんだあ!」
そうか、と俺は呟く。
食い終わり、俺はワイングラスに手を伸ばした。
そのとたん、コアラが爆発した。
そうか、ワイングラスはコアラの爆発スイッチだったんだな。
俺はワインを一口啜った。うまい。
俺はソファで目を覚ました。何だ?夢だったのか?
そう思いながらむくりと起き上がる。
香ばしいコーヒーの香りが漂ってくる。
「おはよう!のぶくん!コーヒーできてるよ!」
「ああ、おはよう。マイハニー。」
コアラは、俺の嫁だった。
そう、ここは、コアラの王国、コアラッコランド。
もちろん、俺も、コアラだった。
学生運動の仲間と写った若い日の祖母の写真。
生真面目な顔が並ぶセピアの写真の隅に、不似合いな堅そうな男の顔があった。
気になった私は、その男のことを聞いてみた。
祖母は言った。
「今は、ポーランドに住んでいるよ。」
「この人は独身でソビエト崩壊前に、ポーランドに行ったきりだよ。」
「この人から手紙は来たことはないね。」
まだ二十歳そこそこの私には、ソビエトにも馴染みがないし、ポーランドも名前を知っている程度。
アルバイトでためたお金で海外旅行に行くことはあっても、アメリカやヨーロッパ、オーストラリアあたりだろう。
父親や母親の若かりし頃の写真を見ると、肩パットとブランドの服。
平気で外車が街の中を、走っていたらしい。
免許取り立ての、そんな若者がね。
最近の私の悩み事である就職問題を見透かすように、「身より実を取りなさい。」
「写真のこの男は、ポーランドで社会的に認められているかもしれない。」
「向こうに家族もいて、幸せかもしれぬ。」
「でも、わたしは少しも羨ましくないよ。」
そういう時の祖母の瞳は静かで、時計の秒針さえ聞こえてきそうだ。
確かに今の時代に敵もよべるものもなく、享受する程の豊かさも剥がれ落ちるばかりだ。
スマートホンの情報速度が上がれば、全ての問題が解決する訳でも無い。
しかし今、同じ時代に祖母と私は生きている。
横の情報ならば私の方が広いかもしれないが、生きてきて得た経験に裏打ちされた情報は祖母に部がある。
祖母の少し疲れた横顔から、わたしはポーランドにいる男のことを考えた。
見知らぬ男だからこそ、勝手に物語を紡げたし、想像もできた。
思索は遠く離れている方が、深く広がるからいい。
そして家族は、近くにいるから普通の風景がいちばんいい。
乾いた振動を繰り返すアブラゼミ。冬の蝉はきっと。冷たい空気は振動の伝達を遮る気がする。だから蝉は夏に生きているのだろうか。そして、もやもやはずっと続いたまま。生きているのか、死んでいるのかさえ分からなくなってしまった。そんな日々をずっと過ごした。自分のためにも他人のためにもならない生殺しのような目をした私。心の中の空洞。どうしようもない私。それ以外の時間はただ、言われた仕事だけを無難にこなして。アブラゼミに心を浸食され続けて。理由は一身上の都合になるのだから。
口に出してはいけない言葉。少しの自覚は残したままに。それでも言葉として小さく放出してみたくなった。
「もう、どうだっていい」
その言葉は破壊的な力を持って私に迫ってくる。社内規約に沿った方法で辞めることは悪ではない。私は私に言い聞かせて。それでも。本当は怖いと思っている。それは既に殺りくであるから。恐怖を払うため、私は心の中で蝉を飼う。枕に押し付けた顔。退職願を出そうと決めた日の夜中。どうしようもなく叫んだ闇の中で。枕に消える熱い息と声の残骸。朝になれば消えると信じていた底知れぬ恐怖はとうとう消えなかった。きっと、鬱ではないと信じていたかった。出社。昼食の味も分からぬままに、時間だけはとっくに過ぎていった。動悸を抑えるための深呼吸をひたすら繰り返した。午後の仕事に追いたてられたことを口実にした。うやむやなままの時間は戻ってはこない。いつのまにか、日々はなくなっていく。決して時間が戻ることはない。あの夜の恐怖は結局いつ終わりを迎えるのだろうか。
随分前に書いた退職願。消えた日々をいくら数えても、二度と戻ってはこない。そんなことは分かっているはずであった。熱い息と声の残骸に取り残された私。鞄の中でしわがよったままの退職願のように。心に巣くう冬の蝉を消すように。ボストンバックに荷物を詰め込んで、高速バスで一泊の東京。傷心を癒すためではないと私は私に言い聞かせて。新宿に到着する少し前、屈強な高い建物が現れる。タブレットで調べてそれが、ドコモタワーであることが分かった。途端に美しく。まばゆく美しく。蝉が生きていたことさえも忘れてしまった私。心の空洞に振動を伝えるアブラゼミ。やっと分かった。そのために蝉は生きていたのか。時刻は十三時過ぎ。
機械から取り外されて横たわる、洗ったミキサーの、透明なガラスと水滴を見ていると、思い出すことがある。
大学を中退した僕は、十二月まで、付き合っていた彼女のアパートで食事を作る代わりに、そこで食事を済ませて、食費を浮かしていた。半同棲していた。
去年の夏の夜、彼女は一人で祭りへ出かけた。僕は晩ご飯を用意して、本を読みながら待っていた。帰ってきた彼女は、透明な水の入った袋を手に持っていた。赤い金魚が一匹、泳いでいた。
リュウキンという言葉で、イメージできるだろうか。膨らんだ体で、尾ひれも体程に大きくて、二枚、後ろから見ると「八」の字になっていて、お尻というか、体を振りながら泳ぐ、金魚。
金魚を入れる為の、ガラス瓶やプラスチックケースがなかった。「これ、これ」と、彼女が指したのがミキサーで、そのミキサーは、彼女がフルーツジュースを作りたいと言って、僕が買ってきた物だった。一回目はりんご、二回目はいちごで試してみたが、僕が買ってきた日にはもう飽きていて、台所の隅に置かれていた。
ミキサーはテーブルの上、彼女が書きっぱなしにしていた、題未定の原稿用紙の上に置かれた。金魚は窮屈とも言わず、透明な筒状のガラスの中で泳いでいた。ミキサーだから、金魚の下には、折れ曲がった四つの刃があった。彼女はコンセントを指していた。危ないから抜こうと言っても、「いいから、いいから」と受け取らなかった。こっちのほうがミキサーも、金魚鉢として、働いているように見えるでしょ、と。
彼女は一度、その二日後に、僕の目の前で「ドゥルン」と、ミキサーを回した。金魚は無事だったが、水の勢いに呑まれて、大きく回った。僕が半べそをかいて「やめてくれ」と頼んだら、彼女は笑って「もうしない」と言ってくれた。
その後、僕も仕事を見つけた。契約社員だったけど、毎日事務所へ行って、朝から晩まで作業をした。
「仕事をする男って、いいね」と晩ご飯の時、彼女は言った。雨の降る日だった。窓ガラスには雨の粒が付いていた。
テーブルの対面に座る彼女は、ミキサーの方を見つめていた。金魚は一匹、体を振って泳いでいた。
ミキサーは、凹か凸かと言えば、その形、凹だった。底には、折れ曲がった四つの刃を秘めていた。連想したのは、痛々しい赤い愛液だった。馬鹿馬鹿しく嫌な連想だった。でも沸き上がるイメージが、次から次にぐるぐると螺旋を描いて登っていった。
赤銅色の正義
ちゃり、ちゃり。
妹のことは、昔から大嫌いだった。
あいつは手がつけられないほどのわがままで、キレやすくて、おまけに口喧嘩がべらぼうに強い。ガキの頃は何度も煮え湯を飲まされたもんだ。
ちゃり、ちゃり。
お袋もお袋で、蝶よ花よとばかりにあいつを甘やかし過ぎたのが災いした。早くに親父を亡くして家計が苦しい不自由を、女の子には味わわせたくなかった? 笑わせる。だからあいつは訳もわからず水商売なんかに手を染めたんだ。
必死に勉強して、大学も特待で入って、今や地元の銀行で真面目に働く俺には、大したねぎらいの言葉もないくせに。
ちゃり、ちゃり。
あれほど憎んだのに。死んでしまえばいいとさえ思ったのに。あいつが今日の明け方、服を乱して、青アザをあちこちに作って、泣きじゃくりながら帰って来た時には、流石にぎょっとした。
相手は、ここらじゃ有名な企業の御曹司だったそうだ。奇しくもそこは、俺が勤める銀行の得意先の一つでもあった。写真を撮られて、札を握らされ、脅されたんだとか。
ちゃり。ちゃり。
つくづく、馬鹿らしい。自業自得だ。
だが、なぜだろう。俺は今、ポケットの中で冷たい硬貨を握りしめて、相手の男の後を尾けている。
しっかりと握り込んでいるから音はしないはずなのに、耳ざわりな金属音が止まない。私刑なんてガラじゃないだろ? 職場での地位はどうなる? 妹に立てる義理なんてあるか?
……それでも。
ちゃり、ちゃり、ちゃりん。
「よう。お前、ちょっとツラ貸せや」
「あぁ?」
振り返ったピアスの鼻っ柱に、固めた拳をまっすぐに伸ばす。
パズルのピースがはまるような、将棋の駒が盤に打ちつけられるような音がして、うるさい耳鳴りはそれきり消えた。
2011年3月スイスから帰国した吉田には地獄の日々が待っていた。日本を外から見続けた期間はまるで地球外から日本列島を凝視する経験したことの無い期間であった。戻って日本は計画停電が鉄道会社にも影響を及ぼし、通勤の足を奪い、物資不足、燃料不足が、物流を仕事としている、吉田の重大な障害となった。しかも海外から救援物資を送り、早く被災地へ届けろと、受け入れ態勢の整わない現地へ何を送りつけているのか、救援活動の真っ盛りの自衛隊基地に海外の軍隊からの緊急援助物資を搬送する、何を本当に必要とされているのかわからない物が数知れず、とめどなく成田空港に届いたのである。ありがた迷惑、まだまだ、救援隊を受け入れるかどうかの時期に人々の食糧にとか、生活物資が、国内での搬送もままならない時期に、道路も確保できず、帰りの燃料も確保できない、車両を送るわけにもいかず、様々なルートで届ける方法を模索の中で余震も数多く続く中、トラックをつけても降ろす場所も確保できないのに、何を目的に被災者にどうやって届けるのか、やはり、物資の戦略的供給、ロジステイックスは何を意味しているのか、長年携わっているにも関わらず、16年前の阪神淡路大震災の教訓は全く生かされていなかった。関東と関西の距離間でその当時もトラックを出して、高速料金が無料だからとこぞって動いたトラックがなかなか帰ってこなかった地域の温度差は、まったく感じられていなかったのと同じ状況であった。また、逆に日本の生産が止まったことで影響を受けるのが自動車生産である。世界中の自動車部品の物量で3割を、金額で半分を生産している自動車関連産業が1週間を経てパンクしたのである。日本の自動車工場が部品の供給を断たれ生産ストップに陥ったのと同様に、日本の部品供給が止まったことにより世界中の自動車生産がストップし、働き過ぎの日本の生産基地は24時間体制で生産を供給し非正規労働者で24時間生産を確保していたことが、この震災の結果世界中に実態を暴露することとなった。日本の自動車生産が滞ったは事実だが、代わりに引き受けれる、生産基地はこの地球上には全く存在しなかったのである。それにより世界一の盛り場、銀座はこの凄惨な時期にもかかわらず、全業界の特に東日本の地獄の日々を救うべく、大いに盛り上がった地獄の戦士の羽を休める最高の安らぎと戦闘に駆り立てる憩の場になったのである。
私だけの話なのか、誰でもそうなのかはわからないが、ある程度の感情は、一度布団で寝ることでリセットがきくものだと思っている。
例えば、さっきのあいつのあの発言がどうにも気に入らなくてイライラが止まらないとか、そんなことだったなら、一晩布団で寝たら忘れていて、あいつの顔を見てはじめて思い出すか、どうか、という具合である。
さらに、例えば、
「あの人が好きで、でもとてもじゃないけど自分なんかじゃ釣り合わなくて、どうしようもなくて泣けてくる」
なんて夜も、次の日の朝、目が覚めた私は、なんてこともなく朝食を食べている。イングリッシュマフィンが美味しい。どんなに彼が好きだって、別に一日中苦しいわけではないし、毎晩苦しいわけでもない。何日かに一回、ふっと思いおこして、押しつぶされたところで、気がついたら布団で寝ていて、何事もなく目が覚める。次押しつぶされるのは、一週間後とか、そんなものだ。
今日は上司に叱られた。自分のミスなのに、まるで誰か他の人が悪かったかのような言い訳をした。「またか」と叱られた。これは自分の癖だった。情けなく思う。自分の癖だとわかっているのにどうにも治せない自分の馬鹿さに呆れ、絶望し、涙が止まらなくなる。上司の顏が思い浮かぶ。苦しい。ふかふかの布団に入って泣く。身動きが取れない。
そうしているうちに、寝てしまっていた。朝になっていた。
もう元気になっている。昨日のことなど忘れている。
全部。
「ねえ旦那、アタシのこと好き?」と小鳥は確かに言った。
私は木陰に寝転んで何かを考えているつもりだったが、小鳥の言葉ですべてが消えてしまった。
それは、ほんのささいな質問かもしれないし、場合によっては、この世を終わらせてしまうような質問かもしれないと思った。
「ねえ旦那、アタシのこと好き?」
「その質問に答える前に一つだけ約束して欲しいのだけど」と私は言いながら眠い体を起こした。「返答しだいで、この世界を終わらせるようなことだけは勘弁してくれないか」
すると小鳥は地球の重力を利用して、木の枝から私の膝へ飛び移った。
「アタシ、世界を終わらせるためにこの質問をしてるの。だってアタシたちは出会ってしまったのだから、もう後ろには戻れないでしょ」
私は大きく溜息をついたあと、そのわがままな小鳥を愛することにした。
世界はその後も続いていったが、あのときから数日後に物語が終了してしまった。
中央政府から届いた手紙にはこう書いてあった。
「物語は終了してしまいましたが、今までと何も変わることはありません。デマなどに惑わされないよう冷静な対処をお願いします」
私には意味がよくわからなかったが、何も変わらないということを知って安心した。どうやったら小鳥を愛せるのか悩んでいたし、そのうえ世界のルールまで変更されたら、もうどうにもならないからだ。
小鳥に手紙の内容を読んで聞かせていると、古い友人が家を訪ねてきた。彼は今、哲学者のアルバイトをしているのだという。
「お前もその手紙を読んだのか」と言いながら彼は、ソファに腰を下ろしてタバコに火を点けた。「しかしお前に小鳥を飼う趣味があったなんて知らなかったよ。肩に乗せたりして」
別に飼っているわけではなくて愛しているんだと説明すると、哲学者の友人は鼻の穴からタバコの煙を吹かした。
「お前は愛することを選んだのか。俺はきっと絶望を選ぶことになるが、いずれどちらかを選ばなきゃならないんだ」
彼が言っていることも私にはよく理解できなかった。唐突すぎる出来事ばかりだ。
「明日世界が終わると想像してみろ。愛するか、絶望するか、どちらかを選ぶしかない」
友人が帰ったあと、小鳥はタバコ臭い人は嫌いだと言った。
「でも何かを選べるということは、まだ希望があるということでしょ。あの人、ほんとうに哲学者かしら」
なにしろ彼はアルバイトだからねと私が言うと、小鳥は小さく笑った。
〈ゆく春や蓬が中の人の骨〉
騒騒しくこすれる梢もかくせぬ仲春の陽気ふりそそぐ病葉にしずむ縞の羽織に紗綾の帯。只顔のままの娘が裾をはだけさせ横臥する森、狐狸も盗人も脱衣婆さえ通らぬ深き山の中腹である。地より這いでる埋葬虫、飛んで啄ばむ田長鳥。臓腑のぞいた娘の腹に小蠅群がり皮を嘗め、生毛を摘み採っていく。ああら気の毒、つつじ花香少女、桜花栄え少女。野武士か悪鬼か何びとに殺められたのかも知れず、蓮台でもなき此処いらでは肌理だけ残る躯ばかりで、さながら枯死した沙羅林の妙。いずれは腐り、骨と繊維と液とに分かれ、袖は泥、髪は蔓と散らばっていく。橘の枝やしない蝶の餌とし、次の季の落葉ふり積り、乾いた山砂敷きつめられ転圧され、都から直でつづく街道ができた。
〈君が家の花橘はなりにけり 花なる時に逢はましものを〉
飛脚や山伏あししげく通り、文車の轍ができる。些事の遠出を襲われし徒人の妻の市女笠とむしの垂れ衣、破瓜の血浴びた玉かずら、朝露が拭う。
〈山深み春とも知らぬ松の戸に絶え絶えかかる雪の玉水〉
草履は布靴、軍靴に変じ、つらなる疎開のあし並みが索道を渡っていく。背後に傷痍をもち、片手足を喪った気狂い先導者、私娼同然の町のおなごを、子らの眼の前で揉みしだく。抵抗されてつき飛ばしゃ崖を転がり渓谷の針葉樹に刺さる。負け戦を讃えよと云ったそばから男児の投げつけた小石で眉間切る親仁、怒り心頭。南下する爆撃機が吐いた赤火で、土砂や貨物と爆ぜる一行。ばらまかれる祝婚の花の如し。
〈死に未来あればこそ死ぬ百日紅〉
高度経済成長が流血をアスファルトで覆って、本土の山脈を貫く高速道を敷く。PA停車中のワンボックスカー、隣県から拉致されたJK、下着切り裂かれスマートフォンで撮られる。ぶん殴られ、鉄管挿されてこねくり遊び、買うでもなく売るでもなく、条理なく奪われた春を思って啼く揚雲雀。リアシートから垂れるしずく、駐車場から追い越し車線を紅くむすぶ、そのしるしはくさり。速度超過で衝突炎上、救出されし少女、髪ふり乱して後続車に轢かれる。
〈誰か似る鳴けようたへとあやさるる緋房の籠の美しき鳥〉
廃道を囲う艾の薗に聳えし白堊のビル。遺伝子工学の粋あつまりし、震災第三世界高原産婦人科、午前四時。
裸んぼうの赤んぼが母を呼ぶ、母を、されども声は聞こゆることなし。
〈メスのもとあばかれてゆく過去があり わが胎児らは闇に蹴り合ふ〉