第150期 #9
僕がソファに座っていると、
ネクタイを締めたアリクイが入ってきて、
手馴れたしぐさで番号票をとり、
僕の右斜め前のソファに座った。
僕はそこそこ驚いていたけど、
僕以外の人間は何も変わらず、
窓口の女の子も、
僕の隣に座っている男も、
平然と事務をこなしたり、
ケータイをいじったりしている。
僕は、
僕が知らない間にアリクイの権利を認める最高裁判決がでて、
それを期にアリクイ達が街に出てきたのだろうかなどと本気で考えた。
少しして、
僕の番号が呼ばれ、
僕はアリクイから遠い方の通路を通って窓口に向かった。
窓口の女の子はお待たせしましたと事務的に言い、
どういった御用でしょうとこれまた事務的に言った。
僕はつかぬ事を伺いますがこの銀行にアリクイはよく来るのですか、
と聞いてみた。
斎藤様ならよくこられますよ、
と女の子がなぜそんなことを聞くのだろうというかのような顔で答えた。
いや僕はあのアリクイの名前が斎藤さんかどうかわからないんだけど。
そうですか、
と言って鞄から書類を取り出した。