第150期 #8
僕はただのしがない高校三年生。
……だったはずなのだが、高校生活をかけて書いた小説がライトノベルの大賞に選ばれてしまって、高校卒業をまたずに作家デビューの為、東京に行く事になった。
学校でも有名人になって鼻高々だったのだが、同じサッカー部の仲間には少し気まずい思いを抱いていた。
全国大会の予選がすでに始まっていたからだ。サッカー部の部員達がこの日の為に頑張ってきた試合、僕はそれを捨てて東京に行くのだ。
サッカー部で行われた僕の送別会も、試合前なのでそれほど人は集まらなかった。
こんなに惨めな思いをするなら送別会なんて無い方が良かった……とさえ思ったが、集まった部員は皆優しかった。
「みんな練習で忙しいんだ。本当だぜ。全力で試合に賭けたいから来られないだけだからな」
「ありがとう」
一生懸命慰めてくれるのは嬉しい。
でも分かっているんだ。皆、サッカーを捨てた僕が嫌いで来たくなかったんだって。
送別会は楽しかったけど、僕のテンションが低かったせいか、それほど盛り上がったわけじゃなかった。
「じゃあこれ、みんなからのプレゼント」
仲間が出したのはサッカーボールだった。
「サッカーボールか。サッカーやる時間あるか分からないけど、ありが……」
「よく見ろよ」
「え?」
そのサッカーボールの白い六角形の部分に何かが書かれていた。
それは魔王だとかハーレムだとか様々な言葉が様々な字体で小さくビッシリと並べられ、全部読むのに半日はかかりそうだった。
「みんなで考えたんだ。お前が作家になってネタに困らないように、一人ずつこんな小説やラノベがあったら面白いだろうなっていうアイデアを書いてあるんだ」
「ホ、ホントだ……」
「白い六角形の一つが一人のアイデアだ。全部で三年生の部員の数とちょうど同じだったんだ。スゴイだろ」
「う、うう……」
僕は嬉しくて涙がボロボロ零れた。
「このサッカーボール、いや作家ボールを大切にするよ!」
「絶対ビッグになれよ!」
「うん!」
今までの僕の不信感や憂鬱全てが吹き飛んだ。
照れ臭くて言えなかった分のお礼は、サッカーの練習に励む部員を見ながらそっと呟いた。
「みんなありがとう」