第150期 #7
「ただいま」ってリビングダイニングのドアを開けて、真っ先に目に飛び込んできたのは、テーブルの上のガラスボールに山盛りになった白いちごだった。あまりの数に、ボクはめまいがした。
「お帰り」って言いながら、キミはソレを口にして幸せそうに頬を緩める。
最近見たテレビでは、ソレが一粒600円って言っていたような気がする。こんな田舎の百貨店なら、もっと高いのではないか。スーパーのおつとめ品なんかではないだろうことは、夕飯の買い出しをしているボクが一番わかっている。
そう考えると、このガラスボールいっぱいのソレの総額は、かるく1万円は超えるんじゃないかって不安になった。
金額なんてお構いなしに白いちごを口に運んで、「美味しい」って笑うキミの隣に座ったら、「どうぞ」ってキミがボクに一粒差出てきた。
「ありがとう」って半分呆れてボクはソレを受け取った。キミが楽しいならそれでいいかって、思ってしまったボク自身に呆れてしまった。
キミから受け取った一粒を食べた。なんだか柔らかくて苺じゃないみたいな食感。そして、かなり甘い。見た目が酸っぱそうに見えたから、そのギャップのせいかもしれない。
「甘くておいしいね」ってボクが言ったら、「そうでしょ」ってキミが嬉しそうに笑った。
夕飯を食べて、再びキミと白いちごを食べはじめる。
「ねぇ、これって初恋の味だと思う?」とキミが納得いかない顔でボクに聞いてきた。
あぁ、この白いちごはその確認のために買ってきたのか、とボクは心の中で苦笑いだ。キミの好奇心には、頭が下がる。
「どうだろう? 昔聞いたのはレモンだったけど」ってボクが言うと、「レモンって酸っぱいだけじゃない」ってキミがやっぱり納得いかないって顔をして、最後の一粒を手に取ってマジマジと眺める。
「こいのかが甘酸っぱくて、初恋の味っぽいけど……」と呟きながら、キミは最後の白いちごを頬張った。
「ま〜でも、初恋の味なんて人それぞれだよね」とキミはニコッと笑って立ち上がり、空になったガラスボールを洗いに行く。
キミの初恋の相手がボクじゃないってことは十分わかっているけど、なんだかそれが寂しいし悔しい。だから、ちょっとイジワルしたいって思ったんだ。
「じゃあさ。キミの初恋の味って、どんなんだった?」
キミは洗い物の手を止めて、天井を見上げてなにかを考える。そして、「初恋は食べたことないかも」って呟いた。
次は、初恋を食べる気か?