第150期 #5

What a wonder world where I live

 昼休憩の時間。弁当を作ってこなかったので、外で済まそうと思った。
「あ。外?」と課長に聞かれた。「え、はい。そうですが」。
「今から、テレビ会議に入るんだよね。これ、出してくれない」と2枚の葉書を渡された。
 
 郵便ポストは双子だった。ポストが2基、仲良く並んでいる。なんで2基あるのだろうか。意味がないじじゃん。そうか。私が知らない間に、郵便の種類が細かくなったのかも知れない。ゴミの分別も細かくなる一方だし。しかし、両方のポストの投函口は両方とも、左の口に手紙を入れ、右の口に速達や国際郵便を入れるという、私の知っているものであった。同じポストが並んでいた。

 左右のポストで郵便局の管轄が違うのかと思ったが、どちらも同じだった。取集時間が違うのかと思ったが、どちらも同じだった。
 どうして2つもポストがあるのか分からないけれど、どちらに入れても結果は同じだろうと私は思った。そして、左のポストに課長から預かった葉書を入れようとしたとき、葉書の表面が寂しいことに気がついた。
 
 郵便番号は、100-1701と書かれていたが、住所は何も書かれていなかった。葉書の真ん中には何某様宛と宛名はしっかりと書かれている。これでちゃんと届くのだろうか。筆跡を見るに、いつもの汚い課長の字だが、いつもより読みにくい気がした。会議に入る前のドタバタで住所を書き忘れたのではないだろうか。

 もう一枚の葉書も同じようなものだった。郵便番号が220-8170と書かれ、住所は何も書かれていない。しかも宛名が、シリウス御中と書かれている。シリウスさん宛てなら、シリウス様、と書くべきではないのだろうか。いや、でも、そんな基本的なことを課長が間違えるはずがないし。そもそも、シリウスって、星の名前ではなかっただろうか。

 一度会社に戻り、課長に確認を促すべきだろうか。でも、会議だって言っていたし。結局、「えい」という掛け声で、私は2枚の葉書をポストに飲み込ませた。

 食事を済ませ、私は会社に戻った。机に戻っていた課長に「投函しておきましたけど……」と私は言った。歯切れが悪い、私の心中を察したのか、課長はニヤリとした。そして、机に置いていたタバコとライターを取り、オフィスから出て行った。

 その日、私は定時きっかりに退社をした。そして空を見上げた。月が2つないかを私は確認してみたくなったのだ。しかし、月は見えなかった。



Copyright © 2015 池田 瑛 / 編集: 短編