第150期 #4
ここは戦場。毎日が地獄だ…
気を許したら、やられる。
俺はこの疵が疼く度に、魘(うな)される自分を呪った。
「あと、もう少し早ければ…」
悔いを残す日々は積み重なり、
どうにかなってしまいそうな気持ちと向かい合いながら、
今日という日を迎えた。
常に実行する事を想定してから行動する癖が付くようになるまでに、
そう時間はかからなかった。
相手がこう動けば、こちらが一手先を読む。
相手はさらに動けば、こちらはニ手先を…というように。
そんな日々を繰り返してきた事で、
今の自分は支えられているのだと戒めてきた。
「勝負は一瞬で決まる。」
「言い訳に費やす時間は気休めにもならない。」
「勝利を掴んだ者のみが、勝者の弁を語ることが出来るのだ。」
過去に読んだ小説の、心に留め置かれていた一節一節が、
立て続けに溢れてきた。
「…!!!」
遠くからヒタヒタと近づく足音が聞こえる。
耳を研ぎ澄まし、息を殺しつつも、この地に立つ俺がいた。
「(今日こそは…)」
心臓の鼓動が時を刻む。
鼓動は近づく足音とシンクロし、そのボリュームを上げる。
生きている実感が身体の隅々へと伝わって行く。
腰を低く落とし、身を構える。
目線を下げつつも、周囲への警戒は怠らない。
脳裏には無機質なセグメント表示のデジタル数字が、
時限爆弾のタイマーのように、静かなカウントダウンを始めていた。
「5…4…3…2…1…」
タイマーが「0」を刻むが早いかどうかのタイミングで、
俺は起死回生の一撃を放っていた!
『ぼっ、僕と…つ、付き合ってください!』
一瞬、驚いた表情を見せ、その後すぐに泣きながら走り去る、
赤いランドセルを背負った小学生の姿を呆然と見送った後、
その光景を遠巻きにして、通り過ぎていく彼女(ターゲット)。
「…は、早すぎたんだ…」
高鳴り続ける鼓動音。
指先から伝わるピリピリとした震え。
それらの刺激に耐えながら、
言わずにはいられなかった俺がいた。
ふと、空を見上げ、呟いた。
「明日から、通学路、変えよう…」