第150期 #2

夜は明ける

夜中から夜明けに変わりつつある頃、外気と変わらないくらいの心の冷えを感じる。
「眠れないな。まったく眠たくないんだ」
「ココアを入れて飲んでみたり、体操をしたりしてみたけどかえって脳が活性化してしまった」
友達だってそれなりにいるし、このご時世では充分すぎるくらいのホワイトな企業に就職出来たし不満なんて何一つない。
でも、たまにこうなるんだ。
インターネットを立ち上げてみれば、色々な人が色々な意見をリアルタイムで発信している。
「人生がつまらない、やりたいことがない、自分が何者かわからない。そうだよな、自分がなぜ眠れないのかすらわからないんだ。俺はこんなに弱い人間だったか」
日本は、世界は悩んでいる。
人に生まれついたことを。
人は感情を持っている。人だけじゃないかもしれないけれど。
だから他人に共感出来る。してるフリの奴もたくさんいるけど。
欺瞞と矛盾だらけのこの世を生きて行くのは難しい。
「ああもうやめたやめた」
文庫本を開いて何度目かの読み返しをする。昔の人も悩んでいた。悩んだ果てに自ら命を立ってしまったりした。
悲しいけれどそれくらい短い人生でその文豪が辿り着いた境地は、とても神々しい気がして、人生を無我夢中で一生懸命生きたんだろうって頭が下がるよ本当に。
鳥が一声ぴいと鳴いた。何という鳥かはわからない。鳥の区別のスキルを身につける暇があったら俺はきっと仕事をしたり彼女とデートをしたりするので、きっと一生わからないままだ。
夜が明ける。スマートフォンが振動して、彼女の名前が浮かび上がる。
「もしもし。うん今起きたところだよ。そうだねいい天気だし、この前君が行きたいって言ってた場所に出かけようか」
人生は短いけど長くて大変なこともたくさんある。時々夜眠れなくなることもあるだろう。でも俺たちは死ぬまで生きなければならない。
「まずは顔を洗って髪型を整えよう。彼女との幸せなデートのために」
僕は精一杯生きる死ぬまで生きる。生きていくんだ。



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