第150期 #1

愛しいものほど

 愛しいものほど手放してしまう。大切なもののはずなのに、あと一歩、相手に譲れないと伝えられない。その度にいろんなものを失ってきた。
 子供の頃大好きだったキラキラ光るオモチャの宝石は、近所のななちゃんに取られた。私は何も言えなかった。
 友達が私の誕生日にくれた小さなうさぎのストラップ、妹に取られた。私は何も言えなかった。
 初恋の彼、友達に取られた。私は何も言えなかった。
 他にもあった気がするけど思い出せない。思い出せないってことは、大して大切じゃなかったのかもしれない。
 そんな私も高校生になり、2人目の彼氏が出来た。優しい人だから誰かに取られるのも時間の問題かな? とか思った。
 ある日、彼が言ったんだ。
「嫌なら嫌って言ってもいいんだよ」
私は首をかしげる。何のことか分からない。
「要らないものは要らないでいい、けど、大切なものは大切でいいんだよ」
「でも──」
 ──怖いんだ。愛しいものを無くしたときのことを考えると……。だったら最初から手放した方が良いんじゃないかって。その方が悲しまなくて済むんじゃないかって、──思ってしまう。
 私がそう言うと彼は微笑みながら、
「大丈夫。本当に大切なものなら、絶対に守れるんだよ」
と言ってくれた。
 私は愛しい人の前で子供のように泣いた。
 そして決めたんだ──。



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