第150期 #18
「ねえ旦那、アタシのこと好き?」と小鳥は確かに言った。
私は木陰に寝転んで何かを考えているつもりだったが、小鳥の言葉ですべてが消えてしまった。
それは、ほんのささいな質問かもしれないし、場合によっては、この世を終わらせてしまうような質問かもしれないと思った。
「ねえ旦那、アタシのこと好き?」
「その質問に答える前に一つだけ約束して欲しいのだけど」と私は言いながら眠い体を起こした。「返答しだいで、この世界を終わらせるようなことだけは勘弁してくれないか」
すると小鳥は地球の重力を利用して、木の枝から私の膝へ飛び移った。
「アタシ、世界を終わらせるためにこの質問をしてるの。だってアタシたちは出会ってしまったのだから、もう後ろには戻れないでしょ」
私は大きく溜息をついたあと、そのわがままな小鳥を愛することにした。
世界はその後も続いていったが、あのときから数日後に物語が終了してしまった。
中央政府から届いた手紙にはこう書いてあった。
「物語は終了してしまいましたが、今までと何も変わることはありません。デマなどに惑わされないよう冷静な対処をお願いします」
私には意味がよくわからなかったが、何も変わらないということを知って安心した。どうやったら小鳥を愛せるのか悩んでいたし、そのうえ世界のルールまで変更されたら、もうどうにもならないからだ。
小鳥に手紙の内容を読んで聞かせていると、古い友人が家を訪ねてきた。彼は今、哲学者のアルバイトをしているのだという。
「お前もその手紙を読んだのか」と言いながら彼は、ソファに腰を下ろしてタバコに火を点けた。「しかしお前に小鳥を飼う趣味があったなんて知らなかったよ。肩に乗せたりして」
別に飼っているわけではなくて愛しているんだと説明すると、哲学者の友人は鼻の穴からタバコの煙を吹かした。
「お前は愛することを選んだのか。俺はきっと絶望を選ぶことになるが、いずれどちらかを選ばなきゃならないんだ」
彼が言っていることも私にはよく理解できなかった。唐突すぎる出来事ばかりだ。
「明日世界が終わると想像してみろ。愛するか、絶望するか、どちらかを選ぶしかない」
友人が帰ったあと、小鳥はタバコ臭い人は嫌いだと言った。
「でも何かを選べるということは、まだ希望があるということでしょ。あの人、ほんとうに哲学者かしら」
なにしろ彼はアルバイトだからねと私が言うと、小鳥は小さく笑った。