第150期 #17

盗人の庭

 思い出。子供の時代・二年生の頃。祖母に手を引かれて近所に住む叔父の家に遊びに連れて行かれた。
「これ知っているか?」
 叔父の家の庭は広かった。家をもう一軒建てられるくらいの広さ。その庭の隅に置かれた石の塊を指して、叔父は私にこれは何かと尋ねた。
 私は答える。
「お地蔵さん」
 叔父の庭には地蔵があった。
 当時は知らなかったが、今では分かっている。叔父には盗癖があった。深夜に方方へ車を走らせ、大事にならなさそうなものを盗ってくる。もう使ってなさそうな潰れた店の看板だとか・捨てられたのかどうか分からない壊れた自転車だとか。それから忘れ去られたような道端の地蔵だとか。それら盗品を庭に並べる。
 よく捕まらなかったものだ。庭に他人を入れることはなかったし塀は高かった。知っているのは親類だけだったが親類がそれを非難することも告発することもなかった。
 他人の物を盗むのに躊躇しない性格というのは商売上では才能の部類に該当するらしい。叔父は雑貨の仲介屋だった。世間知らずの製造業から物を安く買い、昵懇の小売業に高く売る。善く言えば実業家で、どう揶揄しようとも金持だった。
 私の一族は純血の盗賊に金銭面で頼り切っていて、だから叔父の窃盗罪を世間に黙っていた。
 私が伴連れのこの時も、祖母からの金の無心だった。祖母は投機筋に喉首まで漬かっていて、何度も金ではどん底を見ていたらしい。子供がいれば場が和むという祖母の仕掛なのだろう。
 祖母が叔父に雑駁な話を四方山に繰り延べる。滔滔と。次第に日が暮れて、叔父が飲んでいた湯呑を置いて突然言う。
「承知した」
 祖母が洋卓に指を揃えて頭を下げる。儀式だった。融通の額面は事前に伝えていて、後は叔父の了解を得るだけだったのだろう。

 私は今は、叔父からの資金で作られた祖母の遺産で庭付住宅を購入し、へらへらと生息しているのだから叔父に対して云々はない。私も同じ盗人の庭を持っている。
 私と叔父が違うのは、家族くらいだろう。叔父は妻も子供も、寝盗って作った。何から何まで、叔父は自らぜろから作りだそうとしなかった。

 あの日の帰りしな、叔父が庭まで送ってくれた。庭の雑草の合間から、片方の目玉が取れて眼窩の空いた西洋人形を拾う。それを祖母に手渡す。
「これを持って行って、大切にしまっといてくれ」
 叔父はそうして、私たちに金を遣る示しに、他人から掠めとった物を罪ごと引き取れと命ずる。



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