第15期 #7
彼女はアパートメントの階段を早足で上ると、
部屋に戻ってシャワーを浴びた。
シャワーを終えると彼女は、いつもの白いトレーナーとジーパンに着替え、
髪を乾かすのもそこそこに部屋を出た。
それから僕らはドライブに出かけた。
彼女は全然口をきかなかった。
運転する彼女の横顔は、ひどく怒っているようにも見えた。
途中、彼女は一言だけ、
「キライよ」
と言った。
きっと僕のことを言っているんだろうな、と思った。
車はいつもの海岸に着いた。
僕と彼女はこの海岸が好きだった。
彼女は砂浜を長いこと歩き回っていた。
冷たい雨が空から降ってきて彼女を車に追いやるまで、
彼女は砂浜を歩き回っていた。
帰りの車の中でも、彼女は全然口をきかなかった。
運転する彼女の横顔は、やっぱりひどく怒っているように見えた。
途中、彼女は一言だけ何か言ったが、
雨音と、すれ違ったトレーラーの音で聞き取ることが出来なかった。
彼女はアパートメントの階段を早足で上ると、
部屋に戻ってベッドの上に脱ぎ散らかした服をクローゼットにしまった。
それからベッドを背もたれにして、膝を抱えて床に座った。
部屋にはしばらく、外の雨音だけが響いていた。
彼女は手元にあったリモコンのボタンを押した。
正面のテレビがヴン、という低い音を立てて点いた。
ニュースをやっていた。
このニュースなら知っている。先日あった、飛行機墜落事故の
ニュースだ。
ヴン、と音がしてテレビが消えた。
彼女はリモコンを床におくと、声を立てずに泣いた。
僕は彼女をなぐさめたいと思ったが、僕がここにいるということすら
彼女に伝えることが出来なかった。