第15期 #27

反面教師

 ねえねえ買って買って買って。あたしあたしあたしを。
「イヤ」
 そんなすげなく言わないでさーあ。あたし何だって言うこと聞くよ、恥ずかしい格好しろって言うんならそうするよ、四つん這いにもなるよ?
「イヤ」
 服だってさあ今着ている地味なヤツなんかじゃなくて、めちゃんこ派手なのとか、ギラギラしたヤツとか、もうすっごい恥ずかしいコスチュームだって着ちゃうよ? メイド服だってナース服だってOKだし。
「イヤだって」
 ああじゃあさ、出血大サービスで! あたしの腕も足ももぎ取っちゃっていいからさ。別の子のと替えちゃってもいいんだよ? 好きなパーツよりどりみどりじゃん。
「だってあんたかわいくないじゃん」
 じゃあさ顔も取り替えちゃおう。
「だってあんたの性格かわいくないじゃん」
 ……性格なんて、付き合ってたら変わっていく……よ?
「じゃ、ダメ」
 あああ待って待って。わかったわかったから。性格も変えちゃおう! あんた好みの素敵な女に変身しちゃうまで、調教して? うわーあたしいい女になれちゃうんだー超すごいことだよねこれー。あのさだからさもうお願い、こんなあたしを買ってよ、ね?

「絶対ダメ。あんたイケてないのよ流されすぎ。あの女にそっくり」

「まあちゃん、どうしたの?」
 母親がおもちゃ売り場で娘に声をかけると、彼女は棚の上に置いてある人形から目を離して微笑んだ。
「お人形、どれにするか考えてたの」
 荷物を大量に抱えて母親はため息をつく。
「まあちゃんは偉いわよねーママもうこんなに買っちゃったーお店の人に薦められたら断れないのよねーまたお父さんに怒られるわー。あ、そうそう。まあちゃん、お昼ご飯なに食べたい?」
 唐突な質問に少女は一瞬固まった後、曖昧な表情を浮かべる。
「えー……あたし今食べたいのないから、お母さんの好きなのでいいよ」
「え、あら、そう……ママもないのよね。パパ一階にいるみたいだしちょっと相談してみるね?」
 携帯電話で話し込む母親を冷めた目で見て、少女はもう一度人形に話し掛けた。
「ね、あんたそっくりでしょ? ホント、イケてない」
 箱の中の人形と目線を合わせて少女は笑う。
「でも何が一番イケてないってさ、親子なんだもの、いつかあたしが大人になった時に、似たようなことをしているんじゃないかってことね」
 そして少女は目の前の箱を払い落とす。そのまま鼻歌を歌いながら、通話中の母親を一人残し去っていった。



Copyright © 2003 朽木花織 / 編集: 短編