第149期 #4

アジアカップ

 アジアカップは液晶テレビで見た。年が明ける前からインターネット上の比較サイトをチェックしたり、家電量販店のテレビコーナーで実物を下見したり、優柔不断を楽しんでいた。それまで使っていたのが21型のブラウン管で、ワンルームの一人暮らしではそのくらいで十分と思っていたのだが、購入者の感想によるとなるべく大きなものを買った方が満足度が高いらしかった。ある程度大きめのサイズにしてもすぐに慣れてしまい、もっと大きいのを買えば良かったと後悔するのだという。それにしても32型というのはかなり大きいのではないだろうか。それでも誰かさんに従って40型以上にした方がいいのか。
 その頃はまだ、液晶テレビは動きに弱いと言われていた。それを補う特殊機能を各社がアピールしていた。解像度もそれぞれの商品で違いがあり、やはり大きいほど高性能なのだが、そうすると値段も上がる。大きなテレビというのは贅沢品なのではないか、という気持ちは以前からあった。自分のような分際でそのような贅沢をすればバチが当たるのではないかと根拠もなく怯えていた。それでもそろそろ買い替えないといけないと思ったのは、地デジ移行という世間の大きな波にさらされていたからだった。
 本当はその頃、生活を一新したいと思っていた。それは漠然としていたが断固とした思いであって、引っ越しの時に荷物になる大型テレビを買わないということを決意の表れとみなしているところがあった。ある種の願掛けでもあった。ところが漠然とした思いには現実を変える力はなく、「テレビが変わる、地デジに変わる」のCMに促されるように7月までの現状維持を観念して、結局、インターネットの通販サイトで注文した。ネットと店舗では値段に大きな差があったからである。
 届いたのは1月半ばだったと思う。細長い大きな長方形の箱が届いた。重たいブラウン管の代わりに大きさの割に軽い薄型テレビが台に載った。最初はその圧倒的な存在感に違和感を持ったが、同時に気持ちが高ぶった。32型でもそれまでに比べればはるかに大きく感じた。地デジの横長の画面はサッカーを見るのに適していた。クリアな画面に迫力ある映像でアジアカップの観戦を楽しんだ。試合内容は覚えていないが、素晴らしい臨場感で優勝の瞬間に立ちあえて、テレビを買い替えて本当に良かったと思ったものだった。津波の映像も女子ワールドカップ優勝も、そのテレビで見た。



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