第149期 #3

赤い靴

昔、赤い靴の童話を読んだ私は恐いのに、妙に心惹かれた。何故だろう?
赤い靴には、いつも哀しみがつきまとう。
赤い靴の童話は、主人公のセーレンが、結局、本当に大切なモノはお金で買えないことを自らの足を犠牲に悟るもの。

赤はどうして、そんなに哀しみに暮れるモノばかりなのだろう。いつしか、血を見ると無性に恐くなるようになった。赤はあまり、すきじゃない。それは、血の色だから?

夕焼けの中、私はこの童謡を口にする。

赤い靴【童謡】

赤い靴 はいてた 女の子
異人さんに つれられて 行っちゃった

横浜の 埠頭から 船に乗って
異人さんに つれられて 行っちゃった

今では 青い目に なっちゃって
異人さんのお国に いるんだろ

赤い靴 見るたび 考える
異人さんに逢うたび 考える

この唄を知った私は無性に興味をそそられる。
メロディーはあのモーツァルトの《きらきら星変奏曲にそっくりなことで有名だ。

でも、きらきら星とは違う哀しい歌詞。

いつも、私はどうして、茜という名前なのか?
いつも、この名前を呼ばれると切ない気持ちになる。
そして、彼氏に初めて、買って貰ったあの《赤い靴》を履きながら、思うのだ。

次産まれてくる子は、《紅》か、《緋》にしようと。そして、こんな哀しみの唄なんて、変えてしまえばいい。

悲しいような切ないような……それでも、明るい思いやりのある、女の子になるように。
あの《きらきら星変奏曲》のような輝きを放つ女の子になるように。

私は夕焼けの中、ひとり、口ずさむ。

赤い靴 はいてた 女の子〜♪
異人さんに つれられて 行っちゃった〜♪

横浜の 埠頭から 船に乗って〜♪
異人さんに つれられて 行っちゃった〜♪

今では 青い目に なっちゃって〜♪
異人さんのお国に いるんだろ〜♪

赤い靴 見るたび 考える〜♪
異人さんに逢うたび 考える〜♪

まるで、唄の魔法にかかったように、
やけに今日は、茜色のソラが太陽を照らしている。まるで、お腹の中の双子に語りかけているみたい。

赤い靴を履きながら、彼氏ーーいや、旦那の待つ静岡の町へ、横浜という異人の街から、帰っていく。まるで、唄の世界にいるみたいだ。



Copyright © 2015 井澄星菜 / 編集: 短編