第149期 #15
K子の葬儀に参列する同窓生は少なかった。それも含めて懐かしかった。厳ついとか根暗とかではなく、彼女には昔から妙に近寄りがたい雰囲気があった。クラスの中では密かに「巫女」と呼ばれていた。
修学旅行の夜、ホテルのラウンジで偶然K子と二人きりになり、何の話の流れでか昔話を聞いたことがある。
「わたしの初恋は、川だったの」
K子は確かにそう言った。彼女の祖父母は農家で、広い敷地のそばには大きめの川が流れていた。危ないから近寄るなと言われていたが、二階の窓から河畔林を眺めるたび、そこに隠された水面のきらめきを思ったのだという。
祖父母が農作業に向かい、両親が買い物に行ったある日の午後、K子は玄関から駆け出した。緩やかな土手の林の中は深い藪になっていて、当時小学生だったK子は自分より背の高い草を懸命に掻き分けた。苛立って茎を折っているうちに湿布のような匂いが漂った。
川原に抜けると、向こうの空の下は立派な森だった。振り返っても同じだった。まともに聞いたことのなかったセミの声が、森の中から溢れて空を埋めた。
川の流れは澄んでいた。中央の州に、巨大なフキたちがアジサイの花のように茂っていた。うち一本のフキが突然揺れて丈を伸ばし、ゆっくり動いたかと思えば、丸い葉の間から見たことのない男の子がそれを抱えて現れた。
日焼けに鼻を黒くした男の子はK子と同じくらいの年恰好だった。目が合うと彼は驚くわけでなく、微笑んで佇んだ。
「一緒に遊ばない? 友達になろうよ」
そう誘う彼の表情は、少しだけ寂しそうに見えた。
木の葉が風に鳴った。風はどこまで吹き渡っても祖父母の家や畑に辿りつくことなんかなくて、葉の音は遠くの山まで続いていくようだった。K子は男の子を前にして、急に心細くなった。
「ごめんね、帰らなきゃいけないから……」
男の子は微笑んだまま「そうなんだ」と答えた。K子は背筋を緊張させながら踵を返した。せき立てられるように土手の藪に入る。なかなか湿布くさい中を進めなくて泣きそうになっていると、自分を探す祖父の太い怒声が土手の上から聞こえた。
「最後に川原から、『またね』って言われた気がしたの。すぐに護岸工事があってからは行ったことがないんだけど、ずっと忘れられなくて」
話し終えると、薄いピンクのパジャマを着たK子は悪戯っぽく笑った。
K子が溺れ死んだその川へ慰霊に訪れてみるべきか、私は悩んでいる。