第148期 #9

高得点句の伯母さん

「枇杷咲けり日に一便の船着き場 山嵜緑 人生の余白に生きて除夜の鐘 遠藤甘梨 月冴ゆる少女無言で眉を剃る zappa」
伯母さんは高得点句を口ずさみながら句の感想を請うた。
「季語は「枇杷の花」。船着き場の便が一日に一回とは寂しいですが、そんな所はざらにあるだろうと考えれば、リアルな現実を硬質に詠んだとも取れますね。次の句は季語は「除夜の鐘」。子供たちが鐘を突きにやってきますよね。私はあれいやなのでさっさと家を出ることにして居ます。しかしこの句では「人生の余白に生きて」とは。スフィンクスに謎を掛けられて居るような。余った白ですか。私は特に深読みはしませんでした。余生と言う事でもないだろうし、余計者の意識と言う事でもなさそうだ。単に「人生の余白」とそのままとればいいのではないでしょうか。最後の句は季語は「月冴ゆ」。少女が無言で眉を剃るのは仕事の上での必要に迫られての事なのか、プライヴェートの上でのことなのか分かりませんが、どちらだったのかが気になる所です。剃って居た場所も気になりますね。私はバスタブであったろうと推測します。と言うのは私自身も同じ事を同じ場所でやったことがあるからです。」
「そうであろう。では4句目以降も参るぞよ。よろしいか。ふくろうに会うため夜会服を着る 中條啓子 去年今年壜の中なる帆掛け船 丸岡正男 子を四人育てて母の頬被 金太郎 歯ブラシの向きそれぞれに春隣 ツルキジ 」
「では。私は今朝(12月24日)目覚めて直ぐに南から鋭い扉の音、そしてすかざず間をおかずにシャッターの音が東から。高得点句を思い出して仕舞いました。木枯らしをつれて乗り込む無人駅 草紅葉 あどけなき海女の磯笛志摩の冬 秋山軟水 園児等の手話の交わる聖夜劇 高橋牛蒡。そしてさらに音に惑わされたのか私は蒲団にうつ伏せの状態のまま、6,7時台から実に10時56分頃まで、高得点句の事ばかり考えていました。でも主に次の三句だけですね。人ごみに僧ひとり立つ十二月 夏生 月光のふんわり降りる雪の原 ふじもりよしと 物言わぬ寒鰤届く父の名で 佐藤海松。そして自宅の呼び鈴が鳴りました。、再び高得点句を思い出して仕舞いました。一人居に同居の話花八つ手 スカーレット 大鯉の目玉の動く寒さかな のぼさん 終電は揺りかごに似て冬帽子 西茜・・・」



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