第148期 #5
一定のリズムを刻み、がんがんと鐘の音が鳴り響く。常に時は迫ってくる。心の首をゆるりと絞めて、何をするにも不安をあおる。寝ているときはそれを忘れさせてくれるので必要以上に睡眠をとってしまう。すべては無常、どんなに積み上げてもやがては崩されてしまう。しかし、石を掴まねば明日を迎えることさえ許されない。
ああ、鐘の音が時を刻む。いっそすべてを捨ててしまえれば楽なのに。思考する生き物であることが怖い、怖い、怖い。望んでしまう。拒んでしまう。もうわがままを言って良い時なんてとうに過ぎているというのに。気づくのが早すぎた。ある意味遅すぎた。肥大した自我が善良なる自我に襲い掛かる。願いは同じ。しかし叶える手段はもうない。
こうしている間にもすべてが迫ってくる。外では楽しそうな笑い声がする。その傍らで死んだ目をしただろう者たちの叫び声も聞こえる。それを狭い空間でひたすら目を塞ぎ耐え忍ぶ。
どちらも望んではいない。笑顔で人を殺すのは容易いことだと思っている。だけど心は許さない。知りたくなかった。平穏なんてどこにもない。暫定的に保留を繰り返すほか留まる手段はどこにもない。真に善なる存在に。真に無垢なる存在に。最低の生き方を志向する。そのための迷惑は考えない。矛盾はとうに気づいてる。ひたすら耳を塞いで己の脳を殺して。ひたすら。ひたすらやり過ごす。
いっそ無ければよかったのに。存在しない意識を求めて無限の世界へと飛んでしまう。あるから在るのであり、無ければ亡いのである。何も始まらなくて済んだのに。意味のない事が延々と繰り返されるだけ。だけど始まってしまったのだ。そこには過去も未来も存在しない。ただ今の連続が積み重なるだけ。終わるその時まで続くだけ。
きっと答えはない。だから何も考えないだけ。ただ何も考えていないだけ。忘れるしか他ない。己を欺き世界を殺し、慢心の限りを貫くほかない。