第148期 #3
これは夢だ。私はすぐに気づいた。広い草原に私は立っていた。足に違和感を覚え下を見ると、とてつもなくヒールの高いショートブーツを履いていた。ブーツは黒くて編み上げの私好みのブーツだった。しかし、フリルの白いワンピースには少し似合わない。
しばらく一人で歩いてみる。しかし、ヒールの高いブーツはとても歩きにくかった。何度か転びそうになりながら歩いていた。すると、私のすぐ脇をジャケットを着た人間の子供ほどの身長位の大きさの白いウサギが勢いよく抜き去った。両手には紙袋が握られていてとても重たそうだった。
ウサギはピタッと止まり私を見つめる。「見ていないで手伝ってくれ。とてと重たいのだから。君は僕より身長が高いから重たいものでも簡単なんだろ。」と言いながら近寄り紙袋を1つ突き出した。私は反射的に受けとる。ずっしりと重い。中にはニンジンやリンゴが入っていた。
「さあ、受け取ったなら早く来てくれ。急がないと。」そう言うとウサギはまた走り出す。私はウサギを見失わないように走った。ヒールの高さで転けそうになりながら、踵が擦れて血が出ながら私は懸命に走った。
確かに、ウサギが2つ持つには重すぎる。しかし、私にとっても重い。それに、背はウサギよりは高いけれど、こんなヒールの高い靴を履いているのだから高く見えるのだ。
しかし、ウサギはそんな私を気遣う事なく進んでいく。時折ウサギは遠くから「早く来い。」「ちゃんとしてくれ。」と怒鳴られる。受け取ったからには、途中でやめるわけにはいかなくて、でも足が痛くて呼吸も苦しい。
すると、後ろから声がした。振り返ると、シルクハットを深く被ったとても背の高い男性が立っていた。彼は私の手から紙袋を取るとこう言った。
「背ばかり大きくしたって、君には荷が重すぎる。ウサギに頼まれた時になぜ断らなかった。君がこれを運ぶのにはまだまだ早いよ。代わりに俺が持っていく。しかし、君は自分の大きさを理解しないと。」
その言葉で自然と涙が出てきた。いくら高い背伸びしても私は未熟だ。
「しかし、何時かは出来るときが来る。君はその時の為準備をしていればいい。」そう言い残して彼はウサギに向かって走っていった。
ふと気付くと、会社のデスクにうつぶせて寝ていた。誰も居ない深夜の会社で。1人では処理しきれない仕事が目に入った。先程の彼の言葉を思い出し、私は子供のように泣いた。