第147期 #10

黒い黒板

 黒板が黒く塗られていた。
 八時十六分。朝のホームルームの時間の十四分前。いつも通りの時間に、始まるとも思えないけど。黒板の表面は艶々と光っていて、吹きつけられた塗料にヒビ割れはない。たぶん水性スプレーが使われたんだと思う。兄貴がプラモを塗装する時に使っているやつと、よく似た匂いがした。先生が雑巾を持ってくる。やっぱり水性だったようで、何度か擦ると、雑巾の片面が真っ黒になる。今週の掃除の班が呼ばれて、黒板を拭くように先生に言われる。えー、と不満の声が上がる。
「こんな黒板じゃ、落ち着いて勉強できないだろ?」と先生が言う。
 そうかもしれない。そうでないかもしれない。梨花のことを考えた。「歯磨き粉って、粉じゃないし」,「筆箱って、筆なんて入れないのに、なんで」と梨花は言った。梨花はそういうのが許せなかった。今、梨花は教室にいない。絶賛不登校中だ。これは誰の仕業だろうか、梨花か、その意志を継ぐ者か、はたまた全く無関係のヤツか。今日ぐらいは黒い黒板でもいいのにな。黒い塗料が落ちて、緑が現れていくにつれ、そう思う。



Copyright © 2014 三田真琴 / 編集: 短編