第146期 #9

大嫌いで大好きな言葉

「ありがとう」
それは、お礼の時に使う言葉
私はありがとうが大嫌いだった、違う、ありがとうを言えない私が大嫌い
生まれた時から私は自分の声を聞いたことがなかった。勿論、お母さんもお父さんもね。原因なんて、お医者さんに言われたけど覚えてない。

周りの人は皆話せるのに、私が発しると空気に混じって消えて、虚しい気持ちしか残らなかった。
せめて一言だけは言いたい、だから、声を発せるように何回も出してみた。声が出たら一番言いたい「ありがとう」を
でも、出なかった。何回何百回やっても空気に混じって消えた。

だから、この言葉は嫌い、言えない私も嫌い 
でもね?一番好きな言葉でもあるんだ

ありがとうは大嫌いで大好きな言葉



パタンと本を閉じる少女が呟いた。
「私も親に日頃の感謝を伝えないとな、声が発せられるしね」
立ち上がり本を置き、何処に走りだした。
本が風に吹かれて表紙がめくれる。
そこには、『大嫌いで大好きな言葉』と書いてあった。



Copyright © 2014 澪兎 / 編集: 短編