第146期 #6
道端に、少し、内臓のようなものが落ちていた。
あれは父さんだったか母さんだったか。それとも私のものだったのかもしれない。
ふとそれが愛しくなって私は道端の内臓を拾い上げた。それは私の手の中で柔らかく温かく微かに動いていた。
「それ、ほるモンと名付けたの」
「きもっ! てか、そのまんますぎ」
彼が爆笑しながら、ほるモンをシャーペンでつつく。つついた部分から少し血が飛んで、彼の青いシャツに水滴のような染みを作った。
「ぎゃっ、汚ッ」
彼はばさばさと服を脱ぎ、洗面所に走っていく。
「水で流すのよ―。お湯だときれいに落ちないからね」
「わーかってる―!」
私はほるモンを抱き上げ、そのままごろりとベッドに横たわる。ぐじゅり、とどこかが潰れた音がした。
少しの温かみをいつまでも残すそれにしがみつくようにして、私は眠りについた。
「それなんか大きくなってるんだけど」
彼が嫌そうな顔でこちらを見る。彼は決してほるモンの名前を呼ばない。
「ごはん食べるからね」
「ごはん、食べるの?」
「そう」
「何を?」
「肉」
彼は黙って私を見る。それとも、ほるモンを見ているのかしら。
ほるモンは温かく私を包む。最近すっかり大きくなったので、ほるモンが私を抱くと私はすっぽりと埋もれてしまうほどだ。温かい、柔らかい、気持ちいい。
「……お前、どこ? てか、いるの?」
部屋一杯に私は広がる。ほるモンと私は溶けて一つになる。
「おい! ふざけんなよ、なんなんだよ!」
じゃばじゃば、と彼の手が生ぬるい肉の海をかきわける。
うるさい。
「私」がむくりと起き上がると、彼は怯えたようにこちらを睨んだ。
「あいつを返せ! 化け物!」
うるさい。
こんなに気持ちいいのに。彼の声が妙に高くて鋭くて、まるで肉に刺さりそう。うるさい。私の肉が彼の口を、鼻を、喉を、すべてを包む。
私は、気がついたら街全体を飲み込んでいた。ぐじゅぐじゅとした桃色と紫の肉が鉄の街を覆う。波のような肉のひだが、電柱も公園も犬も人も何もかもを飲み込んでいく。
やがて、夜明けより早く飛んできた飛行機の群れが、私の体に炎を撃ち始めた。
太陽が昇る前に私の体は灰になる。
後には少し、骨が残るだろう。