第145期 #9

ペットの埋葬

 大事に飼っていたペットが壊れた。
 仕方がないので土を掘った。丁寧に折り畳んで穴の中に入れた。ううー、ううー、と唸るので、頭を蹴って黙らせた。折り畳んでも折り畳んでも伸びてくる手が邪魔なので、端からのこぎりで切り取った。
 穴のなかが血であふれる。きっとこれが三途の川というものなのだろう。
 川を渡るために必要らしいので、ペットの口のなかに硬貨を詰めた。うまく入らないので顎を割った。だらんと開かれた大きな口のなかにありったけの硬貨を詰める。お小遣い全部。これできっと無事に三途の川を渡れる。
 死出の道を歩いていくのに必要だから、靴も用意する。折り畳んで深くに埋めてしまった足には履かせられないので、代わりに切り取った手をそれぞれ詰めることにした。顔の両脇があいているので、そこに入れることにする。ペットはあがあがと感謝で震えている。うん、上出来。
 あとは花がいる。ペットの最期を綺麗に飾らなくちゃいけない。身体中にキリで穴を開けて、バラの切り花を植えていく。トゲが肉に引っかかってざりざりという音を立てる。華やいでいくのが心地いいのでどんどん植える。
 ペットはもう唸らない。震えも止まったようだ。大事な大事なペットなのだ。できるだけ死出の旅を豪華にしてやりたかったのだ。どうやらその愛情は届いたようだ。
 完全に壊れたぼくのペット。
 泣きながら穴を埋めていく。どんどんどんどん土をかぶせていく。すっかり見えなくなるまで土で覆い、指でそっと穴を開けて、花の種を植えた。きっと綺麗な花が咲く。だって大事な可愛いペットの生まれ変わりなのだ。誰よりも綺麗な花を咲かせてくれる。
 でもさみしいよ。さみしいさみしいさみしい。強度が足らなかったのがいけなかった。最期になるまで何をやっても喜んでくれなかった。次の休みの日にはまた新しいペットを探しに行く。最近公園に住みついているペット候補は山のようにいる。
 愛らしく年老いた次のペットを手に入れて、今度こそ全身くまなく可愛がってあげる。 



Copyright © 2014 たなかなつみ / 編集: 短編