第145期 #3

僕の愛した彼女

 哲学者など、何の価値もない。何の価値もなく自殺したのに、何故彼は生まれてきたのか。彼はよく、寂しい、と言っていた。「クリスチャンでも寂しいものなのか、」と、私が牧師に尋ねたら、一人は「その人の信仰の問題だ」と、もう一人は「神のお考えは、その人にしかわからない」と。私は、人様の心の隅々までわからぬ故、寂しい、と思った。私は女なれども、体は違うけれども、心の中は彼と同じです。私は、2日間、家へ帰ってなかったので、今日両親を安心させてあげたい、と思い、帰宅した。

 両親は、私を心配して、私の体を抱きました。その時感じた体の快感が、そのあと数時間さめなかったので、ある行為をしました。

 電話で男の人を呼んで、街で会いたいと思いました。キレイな服を着て、鏡台で後ろ姿を見ながらファスナを締めて。少しお酒を飲んでから、赤ら顔を作り、その男の人に会いに行った。街で見たその男の人は今風の恰好で、強引に私の手を引き、ホテル、と呼ばれるところへ連れていった。その中で、私の知らないことをたくさんして、その男の人はベッドの上に座りながら、タバコをふかしていた。私はその時、自分が女であることを、改めて確信した。
 そして、無理に叫び声をあげ、その男の人の気を引き離し、ホテルを出た。おちついたあと、また心配する両親のもとへ帰った。両親はしつこいくらい、理由を問いただし、私を気にかけた。
 
 ごはんを食べた後、お風呂に入り、体をきれいにした後で、私は死にたい、と思った。彼の写真をなでながら見つめて、目を閉じた後に、何にも言わない彼の写真の前で、私は両手首を切断した。その時、はじめて親に気づかれず、私は彼のもとへ行った。もし、生まれかわるなら、私が彼と同じ心を持つ、男に生まれたい、と心から願いながら。
 つと、つと、音がする。床に散らかった私の血の音?いや違った。これは彼が私に会いに来た音だ。彼の足音に違いなく、まさかドアをノックする指の音でもないだろう。夜に冷たい風が吹けば、明日の朝には暖かな日差しが目に映る。時計は2時を少し回った所。遠く離れた彼はいつも決まって私の想像の内に居た。今更悔やんでも仕方が無い。何度も瞑想した後、自分の在り処を私は見付けて居た。



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