第145期 #2
海の底から見上げる水面は、日が昇れば白くきらきら輝いて、日暮れ前には赤い宝石のように揺らめいて、ため息がつくほど美しいのです。つまりあれが私にとっての太陽であり星であり、朝と夜の違いを告げる時計でもありました。
しかしあれから時は流れ、海は汚れました。ヘドロと油で水面は濁り、朝日も夕日も働きの悪い鈍光に変わりました。
私は苛立っていました。悲しんでいました。苦しんでもいました。海の空気がそこら中で汚れ、淀み、息苦しい。それに私は生憎、首を絞められて快感を覚えるタイプでもない。
怒り。
腹の中から怒りが湧き出てきました。
一体どこのバカが、私の水面をこうも汚く汚すのか。朝も夜もわからない、こんな不愉快な真似を、誰が一体!
私は浮上しました。ヘドロや腐った藻のようなものや、なんだか分からないぬめぬめしたものが体に絡み付きましたが、怒りのあまりそんなことは気になりませんでした。腕が、尻尾が腐った暗い水の中をそれでも力強くかき分け、そして私は憤怒の眼差しをもってとうとうあの水面を突き破ったのです。
水上の、風は凪いでおりました。海の上にはいくつもの、葉っぱのような形をした鉄の塊が浮いていました。鉄の塊の上には肌色の生き物が動いていました。
「ご、ごごご、ゴジラだ―!」
そのような絶叫を聞いたような気がします。しかしその頃にはもう、私は汚れの元を探すのに必死で、それどころではなかったのです。
ええ、あの、まさか工場を破壊したら、余計に汚れが広がるなんて、その時は知らなかったんですってば。