第144期 #3
恋人が出来た
幼馴染のアイツは身を引いて、俺と関わり合うことはしなくなった
それなのに、
彼女である明海と歩く帰り道、アイツは後をつけて来ているようだ
帰ったらガツンと言ってやる。そう、心に決めた
「明海、本当にここでいいの」
「いいのいいの、大丈夫よ。有難う晃穂くん。また明日ね」
今日のデートは、明海のリクエストでドーナツ屋だった
口の中が甘ったるい
「星七」
「あ、……」
デートの余韻に浸りながらも、呼びかけてやれば震えた声の幼馴染
バツが悪そうな顔をして、そろそろと電柱の陰から姿を現した
「お前な、」
「ごっ、ごめん」
泣きそうな顔をして、頭を下げた星七は、そのまま俺の話もろくに聞かず、逃げるようにして帰って行った
「むかつく……」
高校生男子の俺は、星七が何故泣きそうだったかなんてわからなかった
考えようともしなかった
星七はあの時、既に無くしていたんだ
心のよりどころだった、大切な人を
星七は昔から寂しがりだった
その癖人見知りで、友達なんて俺一人しかいなかった
だから、俺の姿が見えなくなる度に大泣きして、俺はそれが楽しくて意地悪してた
そんな星七が、本当にべったりで、大好きなんだって目で見てわかる程だった相手が、星七のおばあちゃん
星七に連れられて、良く家に行ってスイカやらお菓子やら食わせてもらったっけ
「懐かしいなあ」
優しい星七のおばあちゃんは、もうこの世にいないらしいと、たった今聞かされた
亡くなってから二ヶ月ほど経っていた
星七は二ヶ月の間ずっと一人で寂しさに耐えていたんだ
彼女が出来て、浮かれてた俺を陰から見詰めて、話そう話そうとしてて、一週間前のあの日、ついに見つかった
怒られそうになって、泣いたんだ
「ごめんな、星七」
俺は一人、自分の部屋で己の行動を後悔して、恥じた
「星七」
「あきっ、ほ……」
一週間前の一件以来、まともに口を利かなかった俺から声をかけられて、星七はわかりやすくどもった
ちょっと話そうと、放課後に八百屋に連れてった
スイカを買って、公園で食べた
「大丈夫か」
俺が一言そういうと、星七は壊れたように泣き出した
「おばあちゃん、が、あああ」
「うん」
わんわん大泣きして、帰る頃にはもう真っ暗
星七のお母さんが目を腫らした星七を見て、安心したように笑った
「有難う晃穂くん。二ヶ月間、全然泣けなかったの。この子」
星七の頭を撫でながら、俺を見てそんなことをいうものだから、俺までじんわりと涙が出た