第144期 #12

未発表原稿

 アパートの郵便受けにオレンジ色のリボン包みの飴玉が入るようになっていて、こわごわストーカーなのかと誰かに相談しようと思って誰にも言えないでいた矢先、友人の結婚式に参加した折、小学校時代の同級生の男子と再会した。挨拶した。
「ひさしぶりですね」
「ああ」
 話しながら、二十四年前に通っていた小学校のひとりの女の子が校門前で車にひかれて死んだことを思い出した。学校のみんな、かなしんだ。だけどその週のうちに街で別の連続殺人が起きて、交通事故死の女の子についてはすっかり忘れてしまったことを話した。
 ところどころ剥きだしになった女の子の肉と骨を映像として思い浮かべたけど、そのことを口にするの、下品だと思ってわざわざ話さなかった。

 友人の結婚式のさなか、母親から聞かせてもらったお伽話を思い出す。魔法使いの弟子が竜にさらわれたお姫様を救い出すお話。なんてこの話はすてきな物語なんだろうと思ったことを思い出した。そしてそれをおとなの気休めだと気づいた頃のこと、五、六年前のことを思った。そしてつい最近では、友人たちがさざなみのように結婚しだしたり出産しはじめたこの頃では、そのなぐさめの機能を持つそのお話を、すてきだなあと思いなおしてきていたことを思った。
 人間にはなぐさめのために必要なろまんちっく。なぐさめ。ろまん、ろまんす、ろまんちっく。いまや式がたけなわ、スピーチやら何やらで、テーブルに座ったお呼ばれのお客たちが立ったり座ったりしながら拍手喝采、周りはお祝いのどよめきに溢れているのに、私だけ、とりのこされたような気分に。ああ、他人の幸福がうらやましいんだなあと思った。
 そう思う自分もさもしいし、そういう風に考えちゃってしまっている自分が客観的に見てもとってもさみしい人間なんだろうなと思った。泣けてきた。お酒のせいなんだろうなと思っても、この日のために買ってきたロンググローブに涙が落ちると、染みになって、こんな孤独も克服できずにと思うと泣けて、やっぱり涙は、もたもたと流れてきた。
 さいわい、感動の涙に見えるだろう。自分以外の他人をだませる、と思うとちょっと安心した。でも、こういう自分を見透かす人間も中にはいるんじゃないのだろうかなと思うと、その人たちから見ると本当に自分はかわいそうな人に思われるんじゃないのだろうかな、と思った。そういう心境になった。
 未発表原稿という言葉が思い浮かんだ。



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