第144期 #13
私は俳句仙人の驚異的な記憶力に驚いた
「私の記憶力を見よ」
名月や池をめぐりて夜もすがら 芭蕉 「孤松」
名月や北国日和定めなき 芭蕉 「奥の細道」
命こそ芋種よ又今日の月 芭蕉 「千宜理記」
たんだすめ住めば都ぞけふの月 芭蕉 「続山の井」
木をきりて本口みるやけふの月 芭蕉 「江戸通り町」
蒼海の浪酒臭しけふの月 芭蕉 「坂東太郎」
盃にみつの名をのむこよひ哉 芭蕉 「真蹟集覧」
名月の見所問ん旅寝せん 芭蕉 「荊口句帳」
三井寺の門たゝかばやけふの月 芭蕉 「酉の雲」
名月はふたつ過ても瀬田の月 芭蕉 「酉の雲」
名月や海にむかかへば七小町 芭蕉 「初蝉」
明月や座にうつくしき顔もなし 芭蕉 「初蝉」
名月や兒(ちご)立ち並ぶ堂の縁 芭蕉 「初蝉」
名月に麓の霧や田のくもり 芭蕉 「続猿蓑」
明月の出るや五十一ヶ条 芭蕉 「庭竈集」
名月の花かと見えて棉畠 芭蕉 「続猿蓑」
名月や門に指しくる潮頭 芭蕉 「三日月日記」
名月の夜やおもおもと茶臼山 芭蕉 「射水川」
名月や海もおもはず山も見ず 去来 「あら野」
名月や畳の上に松の影 其角 「雑談集」
むら雲や今宵の月を乗せていく 凡兆 「荒小田」
名月や柳の枝を空へふく 嵐雪 「俳諧古選」
名月やうさぎのわたる諏訪の海 蕪村 「蕪村句集」
山里は汁の中迄名月ぞ 一茶 「七番日記」
名月をとつてくれろと泣く子かな 一茶 「成美評句稿」
名月や故郷遠き影法師 夏目漱石 「漱石全集」
望の月呑みたる真鯉包丁す 長谷川櫂 「初雁」
私は俳句仙人の驚異的な記憶力に夜も眠れなくなり秋の夜長を満喫する事が出来た。