第142期 #7

The man on fire

男は哀しみと寂しさに溢れていた。
湿った風を受けながら灰色の空の下
彷徨う。 その目にはさっきまで降っていた雨に輝く銀世界が映し出されている。
かつての様にはいられず、タバコの赤炎に感じ、開いた袖口に想い、擦れる足元を噛み締めていた。
自分の中にある真実を何よりも大切にしているのだ。

男は気付けば閑散とした見慣れた公園の入口にたたずんでいた。
そこでは定年を迎えたであろう人々が散歩やら花見といった一種の余生の様なものを過ごしていた。

歩く男の姿勢は悪いが、その足取りには目的が感じられた。
男はその公園の奥にひっそりとあるベンチに腰掛け、そして呟いた。
「愛される資格はあるか…」
社会に対する反感に似た紅い塊が男の心の中で燻っていた。
通り行く足音に降り注ぐ心模様、
見ていて見ていない目、そして聞いていて聞いていない街に魂を賭けているのだ。
男は続けた
「俺達は何一つとして分かっていないんだよ…」

ぽつぽつと降り出した雨が男のワインレッドのシャツを濡らす。



Copyright © 2014 佳樹 / 編集: 短編