第142期 #13

森を飼う

 森を貰った。小さな鉢植えに生えている、小さな小さな森だ。飼い方は簡単だよ、と友人は言った。水をやって、日にあてて。なるべく静かにするんだよ。それだけ。
 それで、その日から森の面倒を見るのがわたしの日課になった。水をやって、日にあてて、水をやって、日にあてる。それだけ。
 ときどき息を凝らして観察する。そこにあるのは生命の息吹き。埃のように見えるのはたぶん鳥。繁っている枝葉を落としてしまえば、わたしの眼では捉えきれない生命体が満ちているのが見えるのだろう。
 手は出さない。ただ、眺めるだけ。
 騙されているんだよ、と夫が言う。埃は埃、見えないけど実はいる生命体なんか、そこにはいないよ。そうかもね、とわたしは応える。
 夜、夫が寝ている枕元に鉢植えを置いてみる。
 朝起きたら食い尽くされてた、ってなってもいいのよ?
 息を凝らして、観察する。



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