第141期 #6

溺れた太陽

そう、思っていた。
いや、正確には、そう思うことしかできなかったのだ。宇宙空間やその事象、太陽系を長年研究してきた私は、目の前で起こったありえないこの状況を、しばらくは理解できなかった。全ては、なくなってしまったのだ。もはや私は思想だけの存在になってしまった。
太陽がブラックホールのように他の星々を吸い寄せるようになったのは、ちょうど57年前だ。そのときは、特に危険視もされなかった。なぜなら、その被害が地球に及ぶのは、6000年も先のことだと予想されていたからだ。
しかし、起きてしまった。誰もが予想出来なかったことが。
太陽には吸収限界があった。次々に吸い寄せる度に太陽自体が傷つき、太陽は、完璧なブラックホールと化してしまった。つまり、死んだのだ。大量の星々によって。見境のなくなった太陽は、今までと比べ物にならない力で星々を吸い寄せた。
今は、なにもない。なにも。あれからどれくらいたっただろうか。
私も、思想だけの存在になって、最近思う。いや、これからもそう思うことしかできないだろう。
太陽は、大量の星々に溺れたのだと。



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