第141期 #4

揺らぐ水面と漂う少女の関係性

 メイはもがいていた。皆と同じ視点を持ちたくて必死になっていた。けれどそれは無意味な事なのだと気が付く。嗚呼、この世は―――
「なんて居心地が悪いのかしら」
 ぽつりと呟いたメイの側で、幼馴染である水瀬晴はまたかと溜息を吐いた。というのも彼女には度々現実を見失い可笑しな世界へと旅立ってしまうという癖があるのだ。とんだ悪癖である。メイはこの症状が発症する度に思い悩んできた。幾度と、繰り返してきた。メイには友達が少ない。この悪癖と、趣味が先走り異様な雰囲気を醸し出している為である。メイの趣味、それは空想だ
「こんな世界に居るよりも、水の底に沈んでしまった方が良いと思うわ。晴もそう思うでしょう」
「思わないよ。メイ、目を覚ませ。人間は水中で暮らすことなんて出来ない」
 むっと不機嫌そうな顔をして見せたメイはポカポカと晴の背を叩いた。たった今メイは世界に絶望したばかりである。現実的な話は今、聞きたくなかったのだ。そう、聞きたくなかった。晴とてそれがわかっていない訳ではない。否、わかっているからこそ、敢えて口に出している。晴はメイが好きなのだ。親愛でも友愛でもなく、好きなのだ
「ほら、メイ。この世の何処が、居心地が悪いなんて云うんだい。綺麗じゃない」
 手を取って、幼き日にメイと訪れた丘を登る。そこは街全体が見渡せる程に高く、沈みかけの太陽が世界を橙に色付けていた。わっと声を漏らしたメイの手を、晴はぎゅっと握る。美しい夕日を前に切なくなったのではない。只、設けられた柵から身を乗り出すメイが危うく、そうせずに居られなかったのだ
「晴、元気付けようとしてくれたの」
「そうだよ」
 メイは嬉しそうに、そして少し照れたように、はにかんだ。己が世界からの脱却を企てる度に、最善の手を尽くして押し留めようとする優しく寂しがり屋な幼馴染の気持ちは知っている。けれど未だ、それに答えず只こうして隣に居るのは許されぬ我儘であると、メイは知っていた。現状打破を望む癖に、晴とは変わらず居たいなど我儘過ぎて声も出せない。けれどメイはもう一つ、大切な事実を絶対の真実として知っている
「いつもいつも、ありがとう」
「どうしたの、いきなり。確かにメイを宥めるのは大変だけどさ」
 この幼馴染はその矛盾さえも許してくれる。人の良さそうな笑みを浮かべて、困ったように目尻を下げて、メイの頭にその暖かな掌を乗せるのだ



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