第141期 #12

キミの傍

 変わらない散歩道。
 草のにおいが鼻をなで、風を感じながら歩く、いつもの風景。
 晴れの日も雨の日もあるけれど、見飽きたと思ったことはない。
 この街では、ゆっくり時間が流れてる。
 そんな気がするんだ。

 偶然、帰り道で同じ方に歩くキミを見つけた。 でもいつも通り寄っていっても、キミはちょっとボクの方を見ただけだった。
 その足取りはいつもより遅く、ちょっとだけ揺れているみたいで。
 そうやって肩を落として歩くキミの姿に、なんだか不安を感じた。

 そして、その不安は的中したんだ。

 部屋に戻ったキミは、ただただ泣き崩れていた。
 ボクはいつものようにそっと部屋に入ったけど、キミはボクに目を向けてはくれなかった。
 ただ声を殺して、涙を流すばかりだった。
 何があったなのかなんて、当然ボクには知る由も無かった。

 ボクはキミの顔を見上げて、キミの隣の定位置に座る。
 そしていつものように、そっと体を寄せた。
 そしたらキミの体が震えているのが、ボクにも伝わってきたよ。
 大きな悲しみと一緒にね。

 いつしかキミは、眠ってしまった。
 横になったキミの顔に、ボクはそっと頬を寄せる。
 ボクはキミに、何をしてあげることも出来ない。
 頭を撫でてあげることも。
 そっと胸を貸すことも。
 慰めの言葉をかけることも。
 ボクに、キミの恋人の代わりは、出来ないんだ。
 ごめんね。

 出来ることは、ただキミの傍にいることだけ。
 ぴったりと寄り添って。ちょっとでもキミが温まるように。

 いつまで一緒にいられるかわからないけれど。
 出来る限り、キミの傍にいるよ。
 いつもいつも迷惑ばっかりかけてるけど。
 少しでも、キミの安らぎになれるなら。
 ボクは、キミの傍に居続けたい。
 キミの笑顔が大好きだから。

 この知らない街で。 キミに巡り会えて。
 キミがボクに居場所と首輪をくれたから。
 そうして良かったと、思ってもらえるように。

 ボクはキミの傍にいるよ。キミが起きるその時まで。
 起きたらまた、いつもみたいに笑って欲しいから。
 泣いているキミは、もう見たくないから。
 だからおやすみ。ボクの大事なキミ。

 目が覚めた時、その手がボクの頭にありますように。



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