第141期 #11

血の花嫁

 おどるよおどる、らるららる

 赤には白が相応しいと思う。どこの誰かも分からない男が送りつけた便箋にはそう書かれていた。しっかりとした血文字だ。陰惨も度が過ぎればコメディになる。この男はそれをよく知っている。
 同封されたSDカードに記録されていたのは連写機能も駆使して、精彩に、撮影されたおんなの躯だ。それは息の香さえも知り尽くした恋人の面影を失っていて、辛うじて四肢の形を保った屠殺後の蛮獣のようでしかない。生きているかどうか、もはやそんな問いはやる気もない。あの日々には戻れない。

 時は三月。寒さは和らぎ、花粉が舞うようになった。それでも時に雨は降る。正午あたりから降り始めて、夕暮れは曇天で隠された。いつもなら六時過ぎに来るはずのメールがなく、三日が過ぎた。手紙が届いた。郵便局を経由しない、白紙の封筒に入れられて。

 赤には白が似合うと思う。そう書き添えて男が寄越したのは、セロテープだ。張り合わせた親指の長さほどの。接着面に血を塗りつけて、何か、白いものを封じている。感触からして骨でもない、脂肪、皮膚……なんでも考えられた。僕には、どうしてもおんなに見える。白いドレスを着飾って、赤いスポットライト……ワインの海……真夏の夕暮れの中空で、こんな歌を口ずさみながら踊るおんなに、見える。

 おどるよおどる、らるららる、愛あればこそ照れくさいから、
 どうかわたしを嫌いになって らるららる らるららる……

 男は捕まった。名も顔も知らない男だ。おんなは死んだ。男のアパートにいたおんなは彼女ではなかった。山中に遺棄した数体のうちのひとつが彼女なのか。だろう、と刑事は言う。
 だろうか、と僕は思う。セロテープの花嫁が口ずさむ歌声は、彼女の声ではないのに。
 とりあえず式場に連絡をしよう。式を取りやめて、それから考えよう。僕はこれまで誰を思い、誰に恋をし、男に、誰を奪われたのか。それが分かれば彼女も見つかるはずだから。

 名乗ってキャンセルを頼む、日付と会場を告げ、担当を指名する。電話口は困惑の声を上げ、少々お待ちくださいと言ったきり、延々と保留のメロディが流れる。おどるよおどるとあの歌が怖ろしいほど合致したので諳んじれば、自然に電話は切れ、僕はまだ電話をかけていなかったことに気がつく。
 セロテープから血が溢れ始めて、床に彼女が降り立ったので、おかえりと言う。
 涙ぐむ彼女。けれど、歌声は止まない。



Copyright © 2014 吉川楡井 / 編集: 短編