第140期 #3

キャンプ・ファイヤー

 息子が林間学校の案内をもらって家に帰ってきた。案内には、林間学校に関わるスケジュールや、教育的意義や、費用の仔細が書いてある。キャンプ・ファイヤーの事も細かい。『オクラホマミキサーの曲で踊ります』なんてことまで書く必要が? と疑問に思う。

 自分が子供の頃の林間学校のこと、そしてあの時のキャンプ・ファイヤーを思い出した。

 私の子供の時の、林間学校の二日前くらいに、「この2組で、いじめが起こっている。それは悲しいことだし、情けないことだ」と先生が言った。そして「林間学校で、仲の良かったクラスにまたみんなで戻しましょう。クラスを再生して、やり直しましょう」とも言った。

 そして、自分自身を表していると思う200円以内の小物を、林間学校に持ってくるようにと指示を出した。私は直感的に私の長い髪を止めているヘアゴムを持って行こうと思った。長い髪は、私のトレードマークだった。お団子、三つ編み、ポニーテール、ダウンテール、ハーフアップ。どの髪型だって、可愛いとみんなから言われていた。

 林間学校の日、先生は生徒が持って来た小物をまとめて、井桁の上に置いていた。私のヘアゴムも。その光景を生徒全員で眺めたっけ。

 火の神様が山から降りてきてキャンプ・ファイヤーは始まった。
「火は、私たちの生活を便利にする。しかし、時として、私たち自身をも焼く」というような警句を火の神様が言った。そして、火の神様は友情の炎、勇気の炎を分け与え、再び山に帰っていった。学級委員長と友達のHちゃんが、学年を代表して炎を受け取って井桁に点火した。

 炎の勢いは強かった。私自身に襲いかかってきそうな、そんな勢いの炎だった。「燃えろよ、燃えろよ。炎よ燃えろと」、みんなで炎を囲んで合唱したっけ。

 「火の神様」の役は、息子の担任の先生がすると案内には書いてある。
 そういえば、あの時のキャンプ・ファイヤーで「火の神様」はだれが担当していたのだろう。「山の神様」の身長からして、子供が扮していた。口上を述べたその声は、男子の声だった。だが、小柄なHちゃんよりも、身長の低い男子は1組にも2組いなかった。

 私は林間学校のあと、長かった髪を母に短く切ってもらった。それから今に至るまで、髪をあの頃のように長く伸ばしたことはない。

 二十数年振りに、髪を伸ばしてみようかとも思った。だが、今週末、カットの予約を美容室に入れていたことを思い出した。



Copyright © 2014 池田 瑛 / 編集: 短編